乳癌は、いくつかのサブタイプに分類されているが、そのサブタイプの 1つである Basal-like 乳癌については、さらにいくつかのグループに分けることができると示唆されていた。そのため、本研究では、乳癌細胞株を用い、Basal-like 乳癌の新規のグループ分けと特徴付けを行った。そして、転写因子 SALL4 の発現パターンの違いに着目し、解析を進めた結果、SALL4 依存的に悪性を獲得しているグループとそうでないグループを見出し、SALL4 依存的なグループの分子レベルでの特徴付けを行った。 SALL4 依存的なグループにおいて、SALL4 の機能を明らかにするために、SALL4 のノックダウン細胞において、表現型および遺伝子発現の変化を解析した。そして、すでに報告されていた、BMI1 の発現制御を介した増殖促進に加え、SALL4 が、乳癌細胞の細胞運動を維持していることを明らかとし、初年度に報告した。また最終年度に、SALL4 が制御する接着分子と運動能の関係の解析を行った。 本研究で分類した SALL4 依存的な Basal-like 乳癌のグループには、幹細胞能が高い細胞株が含まれる。このグループをさらに特徴付けるために、本研究では、癌幹細胞の低増殖性に着目し、新規の癌幹細胞アッセイ系を構築した。そのアッセイ系では、細胞を蛍光タンパク質でパルスラベルすることで、蛍光強度の減弱の度合いにより、高増殖制の細胞と低増殖性の細胞とを区別することができる。また、遺伝子発現抑制時や、薬剤添加時において、低増殖性の細胞群の増減を、容易に解析できる。このアッセイ系は、初年度に考案し、最終年度に条件の最適化と問題解決を行い、論文として公表した。今後は、このアッセイ系を活用し、SALL4 や他の重要な分子について、それらと低増殖性の癌幹細胞との関わりの解析を進める。
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