研究課題/領域番号 |
25870386
|
研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
大塚 裕一 獨協医科大学, 医学部, 助教 (10548861)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | トキシンーアンチトキシン / 非コードRNA / 翻訳 / mRNA分解 / 大腸菌 / ファージ |
研究実績の概要 |
細菌が持つトキシン-アンチトキシン系(TAS)は、ストレス時に発現するトキシンが自身の増殖を停止させる仕組みである。本研究課題はトキシンが持つ毒性の分子機構とその活性制御機構を明らかにし、TASの生物学的役割をより明確にすることが目的である。大腸菌O157株が持つTAS, z3289-sRNA1を研究対象として、本年度はsRNA1アンチトキシンによるz3289トキシンの翻訳抑制機構とこのTASの生物学的役割について集中的に解析を行った。sRNA1は非コードRNAであり、z3289 mRNAの翻訳開始領域の上流と18塩基の相補鎖を形成してz3289の翻訳を抑制するが、その分子機構は不明であった。これまでの解析により、sRNA1はz3289 mRNAと相補鎖を形成することで、翻訳開始領域にステム構造が形成され、その結果リボソームが結合できず、z3289が翻訳されないことが明らかになった。また、ステム構造が形成されたz3289 mRNAは、RNase Eにより積極的に分解されることも分かった。一方sRNA1がない場合は、ステム構造の形成阻害が起こるが、その機構に関わる配列や因子の同定を試みたところ、リボソーム以外の因子は必要とせず、5’UTR内の特異的な塩基配列が重要であることが分かった。以上の結果は、翻訳開始領域の2次構造を巧みに変化させて、翻訳やmRNA分解の活性を制御する興味深い事例である。またこのTASの生物学的役割として、薬剤に対するパーシステンスに加え、O157株特異的に感染するPP01ファージの増殖を抑える働きがあることが分かった。z3289-sRNA1が属するType I TASが抗ファージ作用を持つ例はほとんどなく、新規の制御機構の可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は4つの研究項目からなるが、その中の1つ、「sRNA1アンチトキシンによるz3289トキシンの翻訳抑制機構の解明」に関しては、制御の分子機構がほぼ明らかになったので、当初の計画通り進展していると考える。また「パーシステンスにおけるz3289トキシンの役割の解析」に関しては、研究計画を遂行する中で、このTASが新たに抗ファージ効果を持つことが分かってきた。したがって、本研究項目もおおむね順調に進展していると考える。残り2つの研究項目「z3289トキシンの発現から増殖停止の原因である活性酸素の発生までの機構の解明」と「トキシンペプチドによる抗菌効果の検討」に関しては、実験を行っているが現在のところ期待していた成果はまだ得られていない。従って、全体として本研究課題はやや遅れていると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)「sRNA1アンチトキシンによるz3289トキシンの発現制御」に関しては、sRNA1によるz3289トキシンの発現抑制機構がほぼ明らかになったので、現時点までの結果を論文発表する予定である。またトキシンの発現のために翻訳開始領域でのステム構造の解離が起こるが、5’UTR内の特異的な塩基配列が重要な役割を果たすことが分かってきた。その役割の解明にはさらなる実験が必要である。従って、来年度は論文作成と同時にこの課題に取り組む予定である。 (2)「パーシステンスにおけるz3289トキシンの役割の解析」に関しては、このTASがO157株特異的に感染するPP01ファージの増殖を抑えることが分かったので、これまでに明らかにしたz3289トキシンによる細菌の増殖阻害機構やsRNA1アンチトキシンによるz3289の抑制機構を参考に、このTASの抗ファージ機構を明らかにする。 (3)「z3289トキシンによる毒性の分子機構」に関しては、z3289による活性酸素の発生機構の解明を優先課題として、集中的に実験を行う。具体的には、z3289は活性酸素の発生に必要な2価鉄イオンと過酸化水素の細胞内濃度を何らかの機構で上昇させていると考えられる。そこで、細胞内への鉄の取り込みや過酸化水素の発生にかかわる因子の変異株を用いて、その分子機構を明らかにする。 (4)「トキシンペプチドによる抗菌効果の検討」については、化学合成したz3289ペプチドを細菌に添加したが増殖の遅延は見られなかった。おそらく取り込みに問題があると考えられる。すでに細胞内で発現させた場合に毒性を示す最小ペプチドを決定したので、そのペプチドを化学合成して再度検討する。またO157株を含めた様々な細菌を対しても効果を調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
試料調整の問題や他の実験結果を考慮して、今年度計画していた次世代シークエンサーまたはマイクロアレーを用いた実験を実施しなかった。また、社会情勢に加えて、時間的余裕がなかったため、計画していた海外学会への参加を見送った。以上が次年度使用額を生じさせた理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
主として研究の遂行に必要な試薬やキット、消耗品、合成DNAプライマーや合成RNA、シークエンス解析などに使用する。また国内外での学会や研究会への参加費用と旅費、論文発表のための費用として使用する。
|