本研究課題は4つの研究項目からなるが、本年度はその中の1つ「トキシンペプチドによる抗菌効果の検討」を集中的に実施した。大腸菌O157株はトキシン-アンチトキシン系z3289-sRNA1をコードする。z3289トキシンは29アミノ酸からなり、細菌内で発現すると細胞膜に局在して自身の増殖を停止させる。今回、z3289の毒性発揮に必要なアミノ酸を調べたところ、数アミノ酸が重要であることがわかった。そこで、そのアミノ酸からなるペプチドが抗菌作用を持つのではないかと考え、化学合成したペプチドをグラム陽性菌(黄色ブドウ球菌、MRSA、枯草菌)とグラム陰性菌(大腸菌)に添加したところ、グラム陽性菌の増殖停止と生存率の低下、さらには形態観察により細胞膜の損傷が起きることが分かった。次に抗菌作用に対するペプチドの必要十分条件を検討したところ、長さや配列を改変したペプチドはすべて阻害効果を失った。最後に、動物由来の培養細胞(Vero、BHK、CHO)を用いてペプチドの細胞毒性を調べたが、どの細胞でも毒性は見られなかった。以上の結果より、本ペプチドはグラム陽性菌の細胞膜に特異的に作用する抗菌ペプチドであり、かつ細胞毒性を示さない。よって新規抗菌薬のシーズとして期待される。また、既知の抗菌ペプチドとは異なるアミノ酸配列を有し、加えて小さいという特徴があることから、来年度本ペプチドを特許申請する予定である。 昨年度、z3289-sRNA1がO157株に感染するPP01ファージの増殖を抑えることを報告したが、今回その抑制作用がsRNA1アンチトキシンによることを明らかにした。これまでに、アンチトキシンが抗ファージ作用を持つ報告はなく、新規の機構であることが示唆される。
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