本研究計画では、ナノサイズ間隙空間の構造制御と機能開発を達成するため、クラスター集積化合物におけるクラスター種の空間配列制御を目指している。 最終年度となる平成27年度では、平成26年度に引き続き、クラスター集積化合物の素材となりうる多核金属錯体の開発を継続した。その結果、以下のような興味深いクラスター変換反応を見出している:(i)チオラト錯体によるホスフィン保護金9核クラスター([Au9(PPh3)8]3+)の金8核クラスター([Au8(PPh3)8]2+)への構造変換、(ii)ピリジンチオールによる環状パラジウム3核錯体([Pd3(L)3])の環状4核錯体([Pd4(L)4(Pyt)3)への構造変換、(iii)加熱脱溶媒による硫黄架橋銅14核クラスター([Cu14(pen)12Cl]5-)の構造ひずみ反応。
さらに、金属クラスター種の集積構造制御にも継続して取り組んでおり、硫黄架橋5核錯体アニオン([Co2Au3(pen)6]3-)とアクアコバルト(II)イオン種を組み合わせることにより、空隙率が80%、60%、および30%と、互いに大きく異なる3種類の多孔性イオン結晶の作り分けに成功している。これらの結晶の制御は、共存イオン種の結晶成長速度を調整することにより達成しており、結晶化速度がイオン性固体の空隙率制御の鍵であることを明らかにした。さらに、これらの多孔性イオン結晶中の間隙空間は、水を大量に吸着する一方でエタノールやアセトンは全く吸着しない、といった分子選択的吸着特性を示した。これは、イオン結晶中の間隙空間は、強力な内部電場により極めて高い親水性を獲得した「超親水性」とも言うべき性質に由来すると考えている。
以上のように、本研究では、新しいクラスター間隙空間の制御法と珍しい分子包接特性を同時に見出しており、一定の成果を挙げられたと言える。
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