本研究では、自動車ドライバーを対象とした有効性の高い交通安全教育手法の構築を目指した。まず「運転行動を安全側へ変容させるためには、自身の不十分な点に気付いてもらう必要がある」との前提に立ち、自己の運転技能および運転中に生じる感情傾向についての自己理解を高める教育内容を考案した。 安全運転教育を受ける際には、落ち着いた感情状態で講習・研修を受講し、知識を深め、内容を理解するものの、2年目までの研究から、実際の路上ではタイムプレッシャーや他者の行為によって、ネガティブ感情(例;焦りや怒り等)が生じ、その結果、不安全行動が惹起する可能性が示された。すなわち、自動車運転中に、自身の感情をコントロールすることは、安全運転のために重要な技能であると考えた。そこで、運転中の感情コントロール教育プログラムを作成し、プロドライバーであるバス乗務員を対象とした安全教育を実施した。安全教育は、約90分間、ワークシートによる自己評価学習、さらには4~6名のグループディスカッションを交え、自身の感情傾向(焦りやすさや怒りやすさ)の認知、ネガティブ感情が生じる心的過程の理解、さらには対処法の獲得を目指した。計74名の乗務員に対して教育を実施し、教育前後の質問紙調査を比較して有効性を検討したところ、種々のネガティブ事象(例;他者の割込や乗客からの苦情、遅れなど)に対するストレス反応が低減し、自己効力感が高まることが示された。今後は、こうした教育の普及が重要な課題である。
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