研究課題/領域番号 |
25870403
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大垣 隆一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20467525)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脂質代謝 / リパーゼ / 皮膚生理 / 表皮バリア |
研究概要 |
本年度は、新生仔マウスの角質層から抽出した脂質を用いて、網羅的なリピドミクス解析を実施した。野生型マウスとリパーゼ遺伝子ホモ欠損マウスの比較の結果、既に明らかにしていたセラミド以外にも脂質組成変動が認められた。広範な脂質サブクラスにおいて、特定の炭素鎖長をもつ脂肪酸を含む脂質分子種の変動が見られた。また、コレステロールにも総量の変動が見られた。本解析により単一リパーゼの欠損が多くの脂質分子種にわたって組成を大きく変動させることを明らかにした。 基質及び生成物の絞り込みにおいて重要なIn vitroリパーゼ活性測定系の確立に向けて、哺乳類培養細胞株を用いてFlagタグを付加した組換えタンパク質の発現系を構築した。発現させたリパーゼ全長タンパク質は、抗Flag抗体ビーズを用いて精製した。また、精製タンパク質を抗原としてモノクローナル抗体の作製にも着手した。 角質細胞間脂質ラメラの構造的解析をおこなうため、公益財団法人高輝度光科学研究センターの大型放射光施設Spring-8において、新生仔マウスの皮膚のX線小角散乱測定を実施した。リパーゼ遺伝子ホモ欠損マウスの角質最表層において、角質細胞間脂質ラメラ構造に由来する散乱が確認されないことから、脂質ラメラの構造が大きく変性していることが示唆された。併せて、広角散乱の測定と解析を実施し、水平方向の脂質の配向性については有意差が無いことを示唆するデータを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、角質抽出脂質の網羅的なリピドミクスを実施した。広範な脂質サブクラスに変動が見られ、単一リパーゼ分子の欠損が、表皮バリア機能に置いて必須であるとされるセラミド分子以外にも、広範な脂質分子種の組成に影響を与えることが明らかとなった。一方で、基質と反応生成物の充分な絞り込みには至っていない。しかし、哺乳類培養細胞を用いた発現精製系を構築できたことで、市販の各種脂質分子種に対するリパーゼ活性測定の有無を検討する方法や、野生型マウスから抽出した角質由来の脂質と精製リパーゼを反応させてリピドミクスにより網羅的に脂質変動を解析する方法に着手する準備が整ったといえる。 また、角質細胞間脂質ラメラの構造的解析を一部、本年度に前倒しして実施することができた。新生仔マウスの皮膚のX線小角散乱測定を公益財団法人高輝度光科学研究センターの大型放射光施設Spring-8において実施し、リパーゼ遺伝子ホモ欠損マウスにおける明らかな脂質ラメラ構造の異常を検出することに成功した。さらに、当初は予定していなかった広角散乱の解析から水平方向の脂質配向性には有意な異常が無いことを見出したほか、電子顕微鏡観察による超微細構造の観察にも予備的に着手している。 以上のように、計画通り実施出来なかった項目はあるが、想定していた範囲内のことである。一方で、計画を前倒しして行った解析や新たに追加した実験なども実施できており、実験計画は概ね順調に遂行されているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度も引き続き、当該のリパーゼ分子が関与している脂質代謝過程の解明に取り組む。各種脂質サブクラスから購入可能な脂質分子種をモデル基質として選択し、精製リパーゼタンパク質と混合してリパーゼ活性の測定をおこなう。活性が見られた脂質サブクラスについては、脂肪酸部分の炭素鎖長や不飽和度に対する嗜好性のほか、酵素活性のpH依存性など基本的な酵素活性の特性を明らかにする。また、野生型マウスから抽出した角質由来の脂質と、精製リパーゼタンパク質を反応させて、リピドミクスによる網羅的に脂質変動を解析する。この方法により、生体内での真の基質同定に繋がることが期待される。 既にX線小角散乱解析により、リパーゼホモ欠損マウス新生仔の角質において顕著に角質細胞間脂質ラメラ構造の異常を見出している。その異常は角質最表層に見られていることから、電子顕微鏡観察においても特に同部位に着目した解析を実施し、組織の形態的な表現型の記述を完了する予定である。 最終的には、in vitroおよびin vivoのモデル系を用いて相補実験をおこなう。In vitroでは、3次元表皮モデル培養系を樹立して、同定した反応生成物の添加による相補を試みる。In vivoの実験系としては、新生仔マウスの皮膚を野生型生体マウスに移植した系を用いる。 相補の評価は、電子顕微鏡を用いた形態的な観察のほか、リピドミクスによる網羅的な解析による変動解析を併せて実施する。 以上の解析をもって、当該リパーゼ分子の表皮バリア機能における役割と、角質細胞間脂質のセラミドの保持に関わる分子機構を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、当該のリパーゼが関与する脂質代謝過程を解明する為に、精製リパーゼタンパク質と市販のモデル基質を用いたin vitroリパーゼ活性測定を予定していた。また、精製リパーゼタンパク質に対して野生型仔マウスの角質抽出脂質を混合して生体内での真の基質を絞り込む解析を実施する予定であった。しかし、哺乳類培養細胞を用いた組換えタンパク質発現系と精製系の構築に想定以上の時間と労力を費やしたため、実際にはこれらの解析に着手するに至らなかった。そのため、一部の経費が次年度使用分として残る結果となった。 平成26年度は、上記の実験計画を遂行する。そのため、次年度使用額となった経費については、主にこれらの解析にかかる動物関連費用や消耗品の購入に充てる。基質同定の際、野生型仔マウスの角質抽出脂質の混合物を用いるため、マウスを動物実験施設にて維持あるいは購入する必要がある。また、質量分析計を用いたリピドミクス関連の消耗品費用として使用する予定である。
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