研究課題/領域番号 |
25870410
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮部 さやか 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50584132)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノ構造 / ステンレス鋼 / 生体親和性 / 生体材料 / アパタイト被覆 / DDS / ナノホール / ナノチューブ |
研究概要 |
本研究は、生体適合性を向上させる規則的ナノ構造を付与した金属材料に対し、細胞にとって有用な物質をコーティングおよびナノ構造中に薬剤固定を行うことにより、さらなる金属バイオマテリアルの生体・金属界面最適化を行うことを目的としている。 平成25年度は陽極酸化により表面にナノホール構造を付与したステンレス鋼ナノホールアレイ試料を作製し薬剤導入を試みるとともに、アパタイト被覆のための陰極電解条件の探索を行った。 基板として作製したステンレス鋼ナノホールアレイ試料のホール径およびホール深さはそれぞれ電解電圧20 Vのとき約25 nm、5 nm、電解電圧40 Vのとき約180 nm、20 nmであった。これらの基板に対し薬剤導入を実施した。キャップ剤を用いず薬剤導入のみを行った場合、ナノホール試料と鏡面研磨試料との間で薬剤導入量に有意な差は認められなかった。一方で、コラーゲンをキャップ材として用いた場合、コラーゲン有り試料ではコラーゲン無し試料に比べ薬剤担持量は有意に増加していた。また、コラーゲン有り試料のうちナノホール形状を付与した試料では初期の薬剤放出量の抑制が認められた。なお、今回用いた2種類のナノホール径の試料間では薬剤放出過程において特に差は認められなかった。 アパタイト被覆のための陰極電解条件の探索のため、まずはナノ構造を付与していないステンレス鋼に対するアパタイト被覆条件の検討を行った。陰極電解の際の溶液条件や電気化学的条件の検討を行い、アパタイト被覆に適した条件を決定し、試料表面に均一なアパタイトの被覆を可能とした。未処理およびアパタイト被覆後の試料を擬似体液に浸漬させ骨親和性評価を実施した結果、未処理試料では試料表面にアパタイトの析出が認められなかったのに対し、アパタイト被覆試料は更なるアパタイトの沈着を確認したことから、ステンレス鋼に対する骨親和性付与が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は金属表面ナノ構造へのコーティング剤固定化の検討を行った。 薬剤徐放性インプラント作製のための薬剤導入・固定化には、ナノ構造上に徐放スピード制御のためのキャップ剤としてコラーゲンを固定化することを検討し、その際の溶液濃度、浸漬時間の検討を行い、コラーゲン固定化の最適条件を決定した。その結果、コラーゲンをキャップ剤として用いた際には薬剤導入量が増加するとともに、薬剤徐放性を高めるというナノ構造付与の効果が顕著となった。 ナノ構造上へのアパタイトコーティングに必要とされる電解液条件の検討については、電解液のみならず電気化学的条件の検討をも行うことによって、アパタイトの陰極電解に適した条件を決定した。理論上、アパタイト析出量は電気量が大きいほど多くなるため、陰極電解時の電気量は大きいことが望ましい。しかしながら、電流密度が一定値を超えると試料表面での水素発生が盛んになることで試料表面へのアパタイトの均一被覆が困難となることが認められたことから、発生した水素が表面被覆を妨げない電流密度を決定した。
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今後の研究の推進方策 |
陰極電解によるアパタイト被覆のための溶液および電気化学条件を決定できたので、今後は実際にナノ構造基板に対し陰極電解を実施し、アパタイト析出量や微細構造についての検討を行う予定である。また、作製したアパタイト被覆試料を模擬体液に浸漬させることで、その骨親和性評価を行いたいと考えている。さらに、表面をアパタイト被覆した基板上で細胞培養を行い、細胞増殖性やALP活性評価を行うことで、アパタイト被覆ナノ構造基板の細胞への影響を検討する。 薬剤徐放性インプラント作製のための薬剤導入・固定化は、用いる薬剤およびコーティング剤の変更を予定している。薬剤はナノ構造への進入がよりスムースになるよう、分子量がアルブミンよりも小さいインドメタシンを用いることを予定している。また、コーティング剤には、生体分解性高分子であるPLGAを用いる。PLGAはPLAとPGAの混合比を変化させることで分解速度が制御可能な物質であり、分解速度を段階的に変化させた薬剤徐放の検討を予定している。
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