本研究は、生体適合性を向上させる規則的ナノ構造を付与した生体用金属材料に対し、骨親和性向上のためアパタイト被覆あるいはナノ構造中に薬剤固定を行うことにより、さらなる金属バイオマテリアルの生体・金属界面最適化を行った。 骨親和性向上のためのアパタイト被覆は表面にナノホール構造を付与したステンレス鋼に対し、陰極電解法によりアパタイト被覆を実施した。その後、SBF(模擬体液)浸漬試験によって骨親和性向上を確認した。 ナノ構造中に薬剤固定化は、LDDS(Localized Drug Delivery System)のプラットホームとして陽極酸化によってTi基板表面に構造制御したTiO2ナノチューブを作製した。TiO2ナノチューブの径および長さは電圧に比例することが知られており、従来のTiO2ナノチューブは印加電圧を一定に保持することで垂直方向に直線的に成長した構造を有する。高電圧で作製したチューブは径が大きく長いため多くの薬剤を担持可能であるが初期に大量の薬剤放出が発生する。一方で、低電圧で作製したチューブは径が小さく短いため初期の薬剤放出は抑制できるものの薬剤担持量は少量となる問題があった。そこで本研究では、チューブ作製過程の印加電圧を任意に変化させることで、チューブ底部の径を大きく、開口部の径を小さくなるように構造制御したテーパー型TiO2ナノチューブを作製し、インドメタシンを用いた薬剤放出速度試験により、構造制御したTiO2ナノチューブによる薬剤放出制御の有用性を明示した。さらに、試料表面での細胞増殖試験を行い、鏡面研磨試料や径の大きなTiO2ナノチューブと比較し細胞増殖性の向上が認められた。つまり、構造制御したTiO2ナノチューブを作製することで、細胞親和性向上と薬剤放出速度制御の双方を可能としたLDDSのプラットホームの作製に成功した。
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