健康長寿を達成するためには,咬合や咀嚼機能がきわめて重要な役割を果たしていると推察される.これまでに,残存歯数が全身の健康状態や疾患の罹患,さらに生命予後に影響を及ぼしていることは疫学研究により多数報告されている.しかし,歯科補綴の治療目標である咬合力や咀嚼能率などの口腔機能と全身の健康との関連を報告した縦断的研究はみられない.そこで本研究では,平均約65歳の高齢者を対象に10年間のコホート研究を行い,歯や口腔機能,また全身の健康状態や疾患の罹患,ならびにQOLについて調査を行う.また歯や口腔機能の10年間での変化が全身に及ぼす影響について明らかにすることを目的として研究を行った. 平成26年度は,平成16年度に歯や義歯の状態を確認し,咀嚼能力,唾液分泌速度などを測定し,データが保管されている大阪府老人大学講座の元受講生約400名について,追跡調査への参加を呼びかけ,研究参加への同意が得られた169名について調査を行い,2年で合計393名について分析を行い,以下の結果を得た. 10年間で約60%の人が,少なくとも1本歯を失っていた.唾液分泌速度は,大きな変化を示さなかったが,咀嚼能率は有意に減少した.何らかの全身疾患に罹患している者が,ベースライン時は約50%しかいなかったが,10年後は77%に増加した.また,10年間で歯の喪失を認めた人は,歯数が全く変化しなかった人に比べて,高血圧や糖尿病などの全身疾患に罹患するリスクが高くなることが示唆された. 本研究によって,歯数の変化が,全身に影響を及ぼすことが推察される結果を得たが,今後も調査を継続して被験者数を増やし,咬合や咀嚼機能などの口腔機能の維持が,健康長寿を創ることを明らかにしていきたいと考えている.
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