歯科のミニマルインターベンション実現に向けて、健全歯に無侵襲に虫歯を選択的に除去できる技術が求められている。虫歯の有機質由来の吸収波長6μm帯に着目し研究を行ってきた結果、前年度までに波長5.8μm、平均パワー密度30 W/cm2のナノ秒パルスレーザー照射で健全象牙質に低侵襲に脱灰象牙質を選択的に除去可能なことが分かっている。平成26年度は、ヒト虫歯を対象として、虫歯を選択的に除去可能な最適条件および選択的除去が起こるメカニズムについて検討を行った。 選択的除去の最適波長条件を検討した結果、平均パワー密度30 W/cm2の場合、波長5.85μmがヒト虫歯象牙質を選択的に切削可能なことが分かった。虫歯の進行度と関連する要素の1つである「硬さ(ビッカース硬さおよびカルシウム含有割合)」、「臨床歯科医による虫歯の診断(その虫歯を除去すべきか温存すべきかの判断)」と「波長5.85μmのナノ秒パルスレーザーによる切削深さ」の関係を検討したところ、硬い健全に近い象牙質は切削されず、柔らかく虫歯に近い象牙質は切削されることが分かった。また、この「切削される/されない」の関係と臨床医の「切削したい/しない」の関係に相関があることが分かり、波長5.85μmのナノ秒パルスレーザーは治療すべき虫歯を選択的に除去できるということが示された。 ヒト虫歯象牙質の選択的除去が起きる条件で切削したヒト歯象牙質に対するコンポジットレジン(充填修復物)の接着強度について検討を行ったところ、従来法であるEr:YAGレーザーを用いた場合に比べて接着強度は有意に高く、波長5.85μmのナノ秒パルスレーザーによる切削技術は歯科保存治療の観点からも有用なことが分かった。
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