研究課題/領域番号 |
25870425
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
春名 太一 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20518659)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 順列エントロピー / 伝達エントロピー / 残留エントロピー |
研究概要 |
第一に理論研究として、有限アルファベット定常確率過程(FASSP)における、(1)残留エントロピーと順列残留エントロピーの関係、及び(2)伝達エントロピー率と順列伝達エントロピー率の関係、に関する研究を行った。これまでの研究により、FASSPがエルゴード性とマルコフ性を両方持つ場合には、(1)、(2)ともに等式が成立することが分かっていた。本年度における研究では、マルコフ性の仮定を落としても等式が成立するかどうかを検証した。その結果、以下の2つの主張を示すことができた。 (a)与えられたエルゴード的FASSPに対するn階隠れマルコフ近似過程に対する順列残留エントロピーはn無限大の極限で元のFASSPの残留エントロピーに一致する。伝達エントロピー率についても同様の結果が成立する。 (b)文字列集合の分割を順列だけではなく、文字間の等号の配置にも依存させて構成する。このより細かい文字列集合の分割に基づくエントロピーを修正順列エントロピーという。任意のエルゴード的FASSPの残留エントロピーは修正順列残留エントロピーと一致する。伝達エントロピー率についても同様の結果が成立する。 第二に応用研究として、時空間パターンに伴う情報伝達を定量化する手法を考案し、マカクザル下側頭葉皮質における伝播波の解析を行った。格子ネットワーク上に配置された隣接電極間の情報伝達量を順列局所伝達エントロピーを用いて定量し、これに対して組み合わせ的ホッジ分解を適用して情報流ポテンシャルを抽出した。情報流ポテンシャルの極点達がなすネットワークの解析を行い、大域的な情報伝達の方向性や、複雑ネットワークとしての性質を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の研究目的に示した未解決問題「エルゴード的FASSPに対して残留エントロピーと順列残留エントロピーは一致するか」の最終的解決には至っていない。しかし、本年度の研究において、研究実績の概要で述べた2通りの方法によりマルコフ性の仮定を置かない状況でエルゴード的FASSPの残留エントロピーを順列を用いた方法により計算することができることは示すことができた。従って、そのもっとも理想的な形では示すことができなかったものの、今回の結果は、順列エントロピーの方法の妥当性を強化するものといえよう。 また、想定外にマカクザルの皮質脳波解析に携わる機会を得、順列エントロピーを用いた時空パターンに伴う情報伝達の定量化の新手法を提案することができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず理論面では、順列、また、順列と等号の配置、を含むより一般の文字列集合の分割法に基づくエントロピーの定量方法の定式化を行う。順列や、順列と等号の配置の場合には、文字列集合の分割のブロック数とブロックのサイズについて一定の関係式が成り立つ。分割自体は、これらの集合論的実現と捉えられる。従って、ブロック数とブロックサイズの関係式を一般化し、その集合論的実現を見つけることで様々な分割が得られることが期待される。特にFASSP毎に「最適」な分割を構成し、実世界のデータからのエントロピーの定量の新しい手法を提案することを目指す。 次に、応用面では、本年度に確立させた順列局所伝達エントロピーによる時空パターンに伴う情報伝達の定量方法のマカクザルの皮質脳波解析への応用を引き続き行う。特に、個体・視覚刺激の種類が変わった場合に安定に再現される特性と変化する特性を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、次年度使用額によりノートパソコンを購入予定であったが、修士課程の学生が休学となり、当人が用いていた研究室備品の同等のノートパソコンが利用可能となったため、新たな購入を見送った。 次年度使用額は、データ解析のための計算機環境の拡張・整備の為に用いる。翌年度分として請求している助成金は計画通り、成果発表の為の旅費および論文投稿費用として用いる。
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