第一に、順列エントロピーの一般化として、半順序エントロピーを提案し、その性質を調べた。順列エントロピーは、有限アルファベット上に線形順序を備えた定常過程の複雑さの指標とみなせるが、これを一般の半順序へと一般化した。順列エントロピーと同様に等号を考慮しない場合と、考慮する場合のニ通りが考えられる。前者を三角半順序エントロピー、後者を正方半順序エントロピーと呼ぶ。まず、エントロピー率に関しては、どちらの場合でも任意の定常過程に対して通常のエントロピー率と半順序エントロピー率は等しくなることが分かった。一方、残留エントロピーに関しては、次のような結果が得られた:正方半順序残留エントロピーと残留エントロピーが全てのエルゴード的定常過程で等しくなるための必要十分条件は、有限アルファベット上の半順序の自己同型群が自明であること、である。三角の場合には、「全てのエルゴード的定常過程で」を「全てのエルゴード的マルコフ情報源で生成される定常過程で」に置き換えた主張が成り立つ。 第二に、マカクザル下側頭葉皮質における伝播波の順列伝達エントロピーによる解析を昨年度から継続して行った。昨年度までに、格子ネットワーク上に配置された隣接電極間の情報伝達量を順列局所伝達エントロピーを用いて定量し、組み合わせ的ホッジ分解により情報流ポテンシャルを抽出する方法を確立し、情報流の向きやスモールワールドネットワークとしての特性の解析を行っていた。今年度は、個体数を増やし、複数のサルで似たような傾向があることを示唆する解析結果を得た。また、より詳しい解析を行い、少数の電極が動的に情報流ポテンシャルの構築に大きな影響を及ぼしていることが分かった。
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