最終年度は「遺伝的多様性・集団構造の検出」を中心に作業を進めた。全年度を通じて実施した研究成果等は以下の通りである。 ・生息地の把握と試料採集:試料採集と生息地確認のため紀伊半島沿岸域の河川を調査した結果、カワスナガニは9地点で、タイワンヒライソモドキは8地点で生息が確認された。 ・遺伝的多様性・集団構造の検出(mtDNA):2013年度に9地点から得られたカワスナガニ中、8地点192個体分の解析をおこなった。地域集団間の遺伝的分化を見たところ、紀伊半島南西部と東部の地点間、東部と北部の地点間に有意な遺伝的分化が検出された。また、2011年の台風12号による大洪水前の試料(4地点、68個体分)を同様に解析した結果、同河川集団において年度間の遺伝的分化は検出されなかった。遺伝的多様性の指標において、ハプロタイプ多様度・塩基多様度を複数年度間で比較した結果、どの地域においても大洪水後に遺伝的多様度が顕著に減少しているということはなかった。また、2013年度に得られた7地点126個体のタイワンヒライソモドキの解析を、カワスナガニと同様におこなった結果、地域集団間に遺伝的分化はみられなかった。ハプロタイプ多様度・塩基多様度を複数年度間で比較した結果、どの地域においても遺伝的多様度が顕著に減少しているということはなかった。 ・優良MSマーカーの開発と選定:次世代シーケンサーを用いて、両種の塩基配列を大量に得、それらを元に各種MSマーカーの開発と選定をおこなったが、両種ともに、どのマーカーも多型がみられなかった。 ◆2011年の台風12号に伴う大洪水の影響:両種ともに、大洪水を挟む年度間においてどの河川でもハプロタイプ頻度や遺伝的分化、遺伝的多様度の変化等はみられなかったことから、2011年度に発生した大洪水の規模では、汽水性生物にそこまで大きな負の影響は与えず、カタストロフィにはなっていないことが示された。
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