研究課題/領域番号 |
25870434
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
久木元 美琴 大分大学, 経済学部, 准教授 (20599914)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 保育 / 保育の規制緩和 / 待機児童 / 認可外保育所 / 準市場 / 共働き世帯 / 都心再開発 |
研究概要 |
今年度は,多様な主体による保育供給の実態と世帯の育児戦略について,次の4点の研究を進めた. 1)大都市圏における保育サービス供給主体の多様化と地理的偏在について,自治体公表の民間保育施設データを用いた供給量を分析した.待機児童の多いエリアと,民間保育施設の供給が多いエリアには齟齬がみられた.運営主体別の分析では,株式会社は都心区から「山の手」のエリアおよび市部でも駅前などに集中する傾向がある一方で,個人やNPO法人などの主体はより分散的な傾向を示すことが明らかとなった.さらに,基礎自治体によって独自に行われている認可外保育施設への補助事業(準市場的施設)をとりあげ,行政・保育施設への聞き取り調査および利用者へのアンケート調査から,その意義と課題を明らかにした.準市場的施設は待機児童の受け皿として機能している一方で,認可保育所との運営費負担の格差が課題として挙げられる. 2)第二に,NPO法人の参入事例として,都区部および市部における子育て支援施設の運営と育児情報提供の現状について,聞き取り調査およびアンケート調査を実施した. 3)他の先進国大都市における比較調査として,フランス・パリにおけるNPO法人による保育施設等への聞き取り調査と保護者への聞き取り調査を行った.パリでは,社会政策と都市政策の融合により共働きや移民の多いエリアでの参入優遇策がとられており,施設の偏在が防がれている可能性がある. 4)世帯の育児戦略に関する研究として,都心周辺の再開発地(江東区豊洲地区,荒川区南千住地区)における育児世帯へのアンケート調査と聞き取り調査を進め,うち1事例については国内学術誌に投稿した.育児世帯では,親族や勤務地との近接性を求めた転入や,民間保育サービスの利用がみられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画に挙げていた民間保育サービス供給の現状分析および世帯の育児戦略に関する調査に関し,そのいずれにも着手・進捗させることができた,そのうち,東京都における民間参入および準市場的施設の現状と課題,都心再開発地(豊洲地区)の子育て世帯の保育サービス選択について,その成果を複数の国際学会および国内学術誌に査読付き論文として報告した.また,NPO法人による保育供給に関する都心および郊外での現地調査に着手したほか,年度途中には,フランス・パリにおける保育施設への聞き取り調査の機会が得られ,先進国大都市における保育供給の多様化をめぐる制度環境と都市構造に着目した比較研究への足がかりを得ることができた.さらに,世帯の育児戦略に関し,豊洲との比較調査として都心再開発地区(南千住地区)でのマンションアンケートを共同研究によって実施し,聞き取り調査を進めている.以上から,今年度における研究目的を概ね達成している.
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の2年目以降は,初年度に得られた蓄積を踏まえ,以下の研究を進める.第一に,都心再開発地における世帯の育児戦略に関し,インテンシブな聞き取り調査を進めることである.この結果と初年度におけるアンケート調査の結果を統合することで,より詳細な世帯の育児戦略を明らかにする.インフォーマントの獲得においては,アンケート調査で得られた協力者のほか,保育施設を通じた募集なども積極的に行う.また,地域的背景との関連性を明らかにするために,再開発前後の当該地域における保育供給・利用の実態をあわせて検討する.第二に,郊外における保育供給の多様化を明らかにするために,初年度に着手したNPO法人による保育事業の供給の現状とその利用実態調査を進めるとともに,鉄道企業による沿線保育事業を対象に含めた調査を実施する.以上の調査研究においては,世帯の就業や家族構成等に関する個人情報を取り扱うことから,調査協力者への趣旨説明を十分に行ったうえで,情報の保管・管理に際し,ファイルのパスワード設定や紙媒体の持ち歩き制限をかけるなどの対策をとるとともに,研究終了後には適切な方法で廃棄する.
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次年度の研究費の使用計画 |
年度途中において,申請当初は確定されていなかった海外調査(フランス・パリにおける保育施設調査)を行うことが可能となったため,当初予定していた内訳を大幅に変更した.その結果,アンケート調査の集計作業の一部を翌年度に行うこととし,国内調査では聞き取り調査や資料収集等を前倒しにして行ったことから,次年度以降使用額が生じた. 初年度の調査を通じ,都心再開発地でのより詳細な聞き取り調査が必要となったため,調査旅費として使用する.
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