最終年度となる本年度は,これまで実施してきた調査・分析の補足を行うとともに,本研究課題全体の取りまとめに向けて国内外での学術学会での報告や論文執筆を行ってきた.まず,大都市圏郊外や都心部におけるボランタリーセクターによる子育て支援の実態について,当事者によって作成された「子育てマップ」を事例にとり,地域の育児環境の認知や改善における意義と課題について,国際学会(27th International Cartographic Conference)において報告した.次に,育児において重要となるサポート資源は物理的距離のある地域に住む親には取得することが困難だが,インターネットを通じたコミュニケーション・ツールが情緒的サポートや手段的サポートを補う可能性がある.このことについて,東京圏と海外大都市のそれぞれにおいて調査を行い,親族サポートは距離に依存する一方で距離を超えて獲得できる場合があること,特に待機児童問題が深刻な東京圏の都心再開発地ではインターネット上での情報収集や交換が実際の育児世帯の行動に影響を与えていることなどが明らかにされた.この成果は,国際学会(5th EUGEO Congress on the Geography of Europe)においてその一部が報告されたほか,論文として学術書籍に掲載された.さらに,都心周辺部のマンション地域における子育て世帯の居住地選択と育児実態を明らかにし,2015年日本地理学会秋季学術大会において報告した.また,大都市圏としての特徴を考察するために,地方圏の育児環境との比較を行い,国内学会でのシンポジウム講演の機会を得た.
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