今年度は最終年度であるため研究成果の整理・執筆・公表を中心に進めた。 具体的には、長廣利崇「戦前期日本における高等商業学校の経営史研究」(Working Paper Series16-02、2016年5月16日)を公表した。このワーキングペーパーは、序章:課題と方法、第1章:修業年限延長への戦略、第2章:修業年限延長要求と学科課程、第3章:自由選択制と学科課程の改正、第4章:研究体制の構築、第5章:生徒の規律と管理、第6章:高等商業学校の就職斡旋活動、第7章:文芸作品から見る生徒の動向、第8章:国民精神総動員運動と生徒の規律1937~40年、第9章:大政翼賛会と学校行事の形式化1941~43年、第10章:戦時体制と学科課程の再編と「錬成」の限界、第11章:高等商業学校の転換となる。なお、戦前期の高等商業学校の全体像を見るため、本科研の研究期間外にすでに論文として公表(2013年3月)している第6章をワーキングペーパーに加えた。 研究内容を概略すれば、国家・学校・生徒・企業などの多数の主体の利害調整に基づき高等商業学校において人的資本の形成がなされたかを明らかにした。1920~45年までにおいて、高等商業は校長のリーダーシップの下で修業年限の延長を目指した。修業年限の延長は会計・法律などの「技能・技術的」な学科目の教授から、「独創性」・「研究力」などで表現されたアカデミズムへの転換を図るためであった。さらに、1930年代には企業も「独創性」や「研究力」を求めるようになり、学校と企業との利害調整が図られ、文部省も修行年限の4年化を認めようとした。しかし、日中戦争を契機に修業年限の延長は反故とされた。戦時期には、企業は労働力不足、学校はアカデミズムの追求、国家は国民教化を学校に求め、3者の意思決定そのものが困難を極めた。 なお、本研究の成果に基づいて2017年度中に著書を公刊する予定である。
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