研究課題/領域番号 |
25870440
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
伊澤 正一郎 鳥取大学, 医学部附属病院, 助教 (30572599)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 抗WDR1抗体価 / SEREX / 甲状腺乳頭癌 / 甲状腺未分化癌 / ELISA / スクリーニング / 血清診断 |
研究概要 |
1. 抗WDR1抗体価の甲状腺癌血清診断マーカーとしての確立 我々が既にクローニングしたヒトWDR1 C末端のcDNAを基にして、甲状腺乳頭癌および未分化癌の診断に患者血清中の抗WDR1抗体価定量が有用であることは、Clinical Endocrinology (2013) 79, 35-42において報告した。ヒトWDR1の構造はGenbankに登録されており、研究協力者である株式会社コスミックコーポレーション研究開発課 菊池唯史先生、本学地域医療学講座 谷口晋一教授からの助言を受け大腸菌ベクターpMK-RQ (kanR) に人工合成した全長WDR1を挿入し、プラスミドの増幅を行った。さらにこの全長WDR1を用いて、GSTタグのかわりにHisタグを挿入したC末端側のWDR1合成を実施することにより、C末端側についてはGSTタグを含まないWDR1抗原蛋白の確保は可能となった。しかし全長のWDR1蛋白に関しては、形質転換した大腸菌の発現効率が悪く蛋白合成が困難な状況にあり、現時点ではN末端側および全長のWDR1の確保には成功していない。 今回作成に成功したrecombinant蛋白については、我々が以前に検討した患者血清において比較を行った。しかし、recombinant蛋白そのものの純度が保存環境により経時的に変化することで抗体価の測定値に変化が生じることが判明し、現在蛋白の安定供給を優先しているため、多数検体での検討は保留している。 2. StageIの甲状腺乳頭癌を対象としたSEREXによる癌抗原スクリーニング 本来であれば来年度開始予定のStageIの甲状腺乳頭癌スクリーニングに優れた新規診断マーカーの同定についての予備実験を実施した。具体的には3例の甲状腺乳頭癌の原発巣組織および正常組織よりRNAを抽出し、発現アレイを用いて特にWDR1の特性と合致する発現状況を示す抗原の絞り込みを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. 抗WDR1抗体価の甲状腺癌血清診断マーカーとしての確立 WDR1全長およびN末端フラグメントのrecombinant蛋白作成については、全長WDR1を含むプラスミドの合成には成功したが、全長WDR1を用いて、N末端側および全長のWDR1蛋白を合成することには成功していない。しかしGSTタグのかわりにHisタグを挿入したC末端側のWDR1合成を実施することには成功した。抗WDR1抗体のエピトープを決定するためにも、複数のWDR1を安定して供給する必要があり、大腸菌に依存しない蛋白合成系の確立が必要である。 複数のrecombinant WDR1蛋白を用いた抗WDR1抗体価の診断精度向上に関する検討については、recombinant蛋白そのものの純度が保存環境により経時的に変化することで抗体価の測定値に変化が生じることが判明し、N末端側および全長WDR1の供給ができていないため、未だ多数検体での抗体価測定は実施できていない。以上より本年度の主要な研究内容である1. についてはやや遅れている。 2. StageIの甲状腺乳頭癌を対象としたSEREXによる癌抗原スクリーニング 抗WDR1抗体価の診断マーカーとしての意義確立に関する検討で、安定した測定系の確立に時間を要するため、研究方法の再検討のための研究協力者との議論が必要となった。そのため本来であれば来年度開始予定のStageIの甲状腺乳頭癌スクリーニングに優れた新規診断マーカーの同定についての予備実験に着手した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 抗WDR1抗体価の甲状腺癌血清診断マーカーとしての確立 研究の遂行においては、複数のWDR1の安定供給が不可欠である。現在、大腸菌に依存しない安定した蛋白合成系および保存条件について検討を加えており、これらの蛋白を用いて抗WDR1抗体のエピトープ決定を行う。さらに測定抗体価と臨床指標(甲状腺機能、甲状腺自己抗体価、血清サイログロブリン値、腫瘍径、甲状腺推定重量、予後等)との関連について統計学的な解析を行う。以上により検査の簡便性および安定性を確保し、精度の高い抗原部位を決定する。また手術症例の経過観察を行うことで、治療後経過の予測指標としての意義も検討し、抗WDR1抗体価の甲状腺癌血清診断マーカーとしての意義を確立し、ELISAキットとしての実用化につなげる。 2. StageIの甲状腺乳糖癌を対象としたSEREXによる癌抗原スクリーニング 発現アレイの結果を踏まえ、新たな癌特異的抗体の標的となり得る抗原を絞り込む。さらに発現アレイに用いた原発巣組織をもとに、悪性腫瘍に対する自己免疫反応の結果産生される患者自身の抗体を利用して癌特異抗原を同定するSerological identification of antigens by recombinant expression cloning (SEREX) を応用する。λファージexpression cDNA libraryを作成し、患者血清によるscreeningをおこなう。実際のSEREX法では血清によりbackgroundを減らし、少なくとも100万プラークのscreeningが必要と予想される。スクリーニングの結果得られた抗原のうち、StageIの甲状腺乳頭癌を対象とした疾患特異性の期待される候補を2個程度クローニングすることを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
抗WDR1抗体価定量に用いる予定であったリコンビナント蛋白のうち、全長WDR1蛋白およびN末端側WDR1蛋白の安定した合成に成功できなかったため、抗WDR1蛋白のエピトープ決定に関する多数の甲状腺癌検体を用いた抗WDR1抗体のELISAが実施できなかった。そのため、測定に関わる蛋白の大量合成やELISAのための試薬購入が不要となり、次年度使用額が生じた。 大腸菌に依存したリコンビナント蛋白の合成系では、分子量の大きな全長WDR1蛋白の合成は不向きであることがわかったため、現在大腸菌に依存しない測定系を調整している。 次年度においては、新たな蛋白合成系を用いることで抗原となるリコンビナント蛋白を早急に確保し、測定抗体価と臨床指標(甲状腺機能、甲状腺自己抗体価、血清サイログロブリン値、腫瘍径、甲状腺推定重量、予後等)との関連についての解析を行う。以上により検査の簡便性および安定性を確保し、精度の高い抗原部位を決定する。
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