現在に至るまで台湾では低病原性および高病原性H5N2亜型インフルエンザウイルスによる鳥インフルエンザが断続的に発生し、経済的に大きな被害を与えている。病原性の低いH5N2ウイルスがどのようにニワトリに対する病原性を獲得するかを明らかにするため、台湾で分離されたA/chicken/Taiwan/A703-1/2008 (H5N2)(台湾08株)のリバースジェネティクス系の確立を試みた。結果、本株のヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)およびマトリックス(M)遺伝子を発現するプラスミドを得た。研究実施者は台湾08株のニワトリにおける継代実験により、本株の病原性獲得に与ると考えられるウイルス側因子候補を見出しており、HAおよびM遺伝子にこれらの変異を導入したプラスミドをさらに作成した。これらの発現プラスミドとA/Puerto Rico/8/1934 (H1N1)株由来の発現プラスミドを種々の組合せで細胞に形質導入し、変異ウイルスを作出した。 各変異ウイルスを4週齢のニワトリに静脈内または鼻腔内接種、8週齢のニワトリに鼻腔内接種し、病原性を評価した。結果、HA蛋白の389番目のグリシン(Gly)からアルギニン(Arg)への変異、およびM1蛋白の104番目のアルギニン(Arg)からリジン(Lys)への変異がH5N2亜型呈病原性鳥インフルエンザウイルスのニワトリに対する病原性の増強に与っていることが明らかとなった。これらの変異を有しているH5N2ウイルスは実際に台湾の家禽から近年分離されており、本変異が台湾の家禽における流行ウイルスのニワトリに対する適応に寄与していることが示唆された。
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