本研究は、H7亜型鳥インフルエンザウイルスの強毒化メカニズム解明を目標に、H7N6亜型低病原性ウイルス国内分離株の鶏への病原性獲得とそれに寄与するアミノ酸変異の同定を目的とする。 これまでに、ウズラ由来H7N6亜型低病原性ウイルスを、ウズラ脳で16代、鶏脳で8代継代し、HA開裂部位が強毒型に変異し、鶏への静脈内接種では5-8日間で死亡するが、呼吸器感染では病原性の弱い継代変異株を得た。この継代変異株を鶏への経鼻接種で3代継いだところ、高病原性鳥インフルエンザでよく見られる臨床徴候が確認された。 最終年度において、この継代株の病原性を確定するため、6週齢鶏を対象に静脈内接種病原性試験を実施したところ、鶏は1-4日で全羽死亡し、高病原性が確定した。脳継代株に較べて生存期間が短縮していたことから、肺継代によって鶏への病原性がより強くなったことが推察された。この鶏肺での3継代により、HAタンパク質には3箇所のアミノ酸置換(Glu89Asp、Thr169Asn、Glu403Lys)が認められた他、脳継代中に導入されたアミノ酸置換のうち、Asn493Aspが維持された一方でLeu88Argは肺継代により元のアミノ酸に復帰したことから、病原性への寄与は低かったと考えられた。 本研究では、低病原性H7亜型ウイルスが家禽で継代されることで、強毒化することを初めて実験的に証明した。最終的に、継代開始前の低病原性株と、家禽での継代により作出した高病原性株を較べると、HAタンパク質では、開裂部位への塩基性アミノ酸挿入に加えて、上記4箇所のアミノ酸が異なるのみであった。HA以外のタンパク質では、PAタンパク質(Arg490Lys)とM2タンパク質(Asp44Asn)にそれぞれ1アミノ酸置換が維持されており、これらが鶏への病原性獲得に寄与した可能性が高い。
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