本研究は、1920年代から30年代の日本における女子スポーツとメディアとの関係について実証的に研究し、近代日本における女性観の変容を考察するものである。本研究の研究課題は、大きく三つに区分できる。第一に、新聞社が主催・後援した女子スポーツ関連の事業活動の展開、第二に、新聞紙面における女子スポーツの表象、第三に、婦人雑誌における女子スポーツの表象である。これらを通して、日本における女子スポーツの黎明期を、メディア・スポーツ(メディアが演出・報道するスポーツ)という観点から捉えることができると考えた。
2016年度は、第二の研究課題(新聞紙面における女子スポーツの表象)に関して、世界女子オリンピック(1926年および1930年)に関する『大阪毎日新聞』の記事を質的に分析した論文を発表した。『大阪毎日新聞』に掲載された世界女子オリンピック大会の記事は、女子選手たちを「新時代の女性」の理想として肯定的に描き出していて、彼女たちを「良妻賢母」的な枠組みに押し込めたり「女らしさ」から逸脱しているとして非難・中傷したりすることはなかった。従来の研究では、第一次世界大戦後、女性の活動領域は拡大していったものの良妻賢母を軸とした女性観が維持されていたことが指摘されてきたが、国際競技に進出し始めた女性たちの表象のあり方は、当時の女性観がより複雑であった可能性を示唆するものである。
第一の研究課題については、大阪毎日新聞社の女子スポーツ事業の展開を、女学生のスポーツ文化と関連づけながら、論文にまとめる計画である。第三の研究課題については、一部の資料を収集することはできたが、分析段階には至らなかったので、今後の課題とする。
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