研究課題/領域番号 |
25870453
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
高橋 仁 島根大学, 医学部, 助教 (10432618)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Proteomics / アトピー性皮膚炎 |
研究実績の概要 |
アトピー性皮膚炎の角層バリア機能の破綻は、様々な細胞接着因子やプロテアーゼおよびサイトカインなどが関与するが、これまで、これらのタンパク質群の変動を一度に捉える方法は無かった。iTRAQ法は、質量分析計を用いて、検体間で増減しているタンパク質群を網羅的に相対定量する有用な方法である。本研究は、アトピー性皮膚炎の角層バリアの破綻に関わるタンパク質群を明らかにすることを目的とし、iTRAQ法を用いて、アトピー性皮膚炎の局所病変部の角層中に特異的であり、かつ、病勢に関与するタンパク質群を網羅的に定量・同定することを計画している。 初年度は、テープストリッピング法を用いて採取した角層を回収するため、有機溶剤を用いた工程を経てた後、各層タンパク質をiTRAQ法を用いて解析した。その結果、最大218個のタンパク質が同定され、ケラチン以外のタンパク質は191個であった。 本年度は、得られたタンパク質群をデータベース検索し、各層タンパク質の抽出法およびタンパク質の分画方法の妥当性を検討した。ケラチン以外の191個のタンパク質のうち、同定の信頼度が高いタンパク質は50個ほどであった。そのうち、発現変動が検出されたタンパク質は10個であった。これら10個のタンパク質のうち、幾つかは既にアトピー性皮膚炎において発現量が異なると報告されているタンパク質であった。これは、本法によっても各層タンパク質の変動をとらえていることを示している。しかしながら、同定したタンパク質の個数は当初の予想よりも少なかった。この理由として、検体からのタンパク質の抽出効率が有機溶媒の使用によって低下し、さらに複雑なタンパク質構成が起因していると考えられたことから、次年度はこれらの問題を克服する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、アトピー性皮膚炎患者の病変部の角層中の全タンパク質のうち、病変部角層において増減しているタンパク質を質量分析法 (iTRAQ法) で解析するため、予備的解析を行い、本法に適したタンパク質の抽出条件等を検討することを目標にした。本年度の検討によって、報告されている幾つかのタンパク質が今年度の検討で検出されたこと、また、本法に適した角層タンパク質の抽出方法として、有機溶媒を使用しない方法が適していると示唆されたことから、研究の進捗はおおむね順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討から、角層タンパク質特有のタンパク質抽出率の低さ、および、構成タンパク質の複雑さを解決する必要があることが明らかになった。そこで、今後は、iTRAQ法を実施する前に、タンパク質構成を単純化するため、抽出したタンパク質のプロテアーゼ消化後に等電点電気泳動法で分画する方法を追加し、タンパク質の複雑さの問題を克服する予定である。また、タンパク質の抽出率の低さは、セロテープ上の角層タンパク質を直接抽出することで解決されると予想される。これらの検討を行うことで、より多くの候補因子が同定されることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画において、iTRAQ法を用いて病勢と関連するタンパク質群を同定した後、免疫染色法およびELISA法を用いて検証することとしていた。平成26年度の結果から、幾つかの候補因子は同定できたものの、予想よりも少なかった。これは、検体からのタンパク質の抽出効率が低く、かつ、複雑なタンパク質構成が起因していると考えられる。この点は本研究の遂行において基盤となる点であるため、当初の予定を変更し、タンパク質の抽出方法の検討に注力した。
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次年度使用額の使用計画 |
タンパク質の抽出方法に関してはいくつかの点を検討する必要があるが、ほぼ確立されたと考えている、検討した方法を今後用いる予定である。タンパク質の複雑さの解決は、iTRAQ法を実施前に抽出したタンパク質をプロテアーゼ消化後に等電点電気泳動法で分画する手法を実施することでタンパク質構成を単純化する予定である。その後、複数の検体で解析を行い、本研究を遂行する予定である。
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