研究課題/領域番号 |
25870465
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
沢田 正博 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (00335697)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 超薄膜 / グラフェン / 磁気円二色性 |
研究概要 |
本研究では、超高真空中における原子層精度の製膜技術により、グラフェンまたは六方晶硼化窒素の単原子層と鉄やコバルトの単原子層からなる積層構造を作製するとともに、超高真空下のその場測定環境において、構造評価と放射光磁気分光を一貫して実施する。また、表面酸化や保護層の影響のないTMR素子の理想モデルとしての超薄膜 MTJ構造について、積層構造と界面化学状態および磁性状態を調査する。本研究は、単原子積層制御された磁気電子デバイスの基本構造について、界面および積層構造の磁性と電子状態を明らかにして、デバイスの動作と直接関係する巨視的な電気伝導現象を微視的視点から考察するものである。本年度の具体的な研究実績は、以下の通りである。 (1) 超高真空下における超薄膜作製環境において、プロピレンガスのクラッキングの手法によりNi(111)単結晶基板上にグラフェンを作製するための製膜条件を探索して、明瞭な電子線回折像を示す良質な単層グラフェンを得た。また、このグラフェン上へのFeを蒸着とポストアニールによりFe原子層をインターカレーションさせるための試料作製条件を探索して、最適条件を明らかにした。Fe原子層厚が1~10層の範囲で、電子線回折像が明瞭な良質の積層構造を得ることができた。 (2) グラフェンとコバルトの界面形成を視野に入れ、磁気電子デバイスとしての活用が有望視される(111)面を有する磁性超薄膜Co/Au(111)について、STM観察と磁気円二色性実験を実施した。また、この成果を学会等で発表した。 (3) Graphene/Fe/Ni(111)構造について、界面の化学状態と磁気状態を明らかにするために、X線吸収スペクトルとその磁気円二色性スペクトルの測定を行った。界面の磁気状態について解析を行い、その成果を学会等で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、インターカレーション法による強磁性層とグラフェンまたはh-BN単原子層の理想界面形成現象を利用して、グラフェンおよび h-BN単原子層の超薄膜MTJ構造について、界面磁気状態をはじめとする微視的状態を実験的にプローブする研究であり、単原子厚精度での試料作製と、スペクトル測定による磁気および電子状態プローブ実験を組み合わせた研究である。本年度の活動では、試料作製実験を主として進めたが、グラフェン膜に関する試料については、一部、スペクトロスコピー実験まで進捗させた。しかしながら、グラフェンに関する試料作製条件の探索に予想より時間がかかり、h-BN膜の作製条件の探索まで進捗しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の達成のためには、信頼性の高い試料作製が本質的である。したがって、試料の作製手法の確立が不十分な状態のまま、品質の評価が十分でない試料について、電子状態プローブ実験を性急に進めることは避けるべきである。今年度前半は、グラフェン膜を構成要素とする試料の測定とh-BN膜の作製条件探索に集中して、年度後半に、電子状態プローブ実験を進捗させる方針である。電子状態プローブ実験については、放射光施設の共同利用研究の枠組みを活用して実施予定であるが、随時申請の申請枠を活用して、試料作製手法の確立次第、至急のビームタイムを確保することにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画では、複数の磁性金属での蒸着等、いくつかの試料を並行して作製して実験を進める予定であったが、本年度はFe蒸着源の一元蒸着での研究進展を優先して、特にグラフェンとFe界面の磁性に着目する研究を進捗させた。このため、複数試料の作製のための蒸着装置増設や試料材料の予算執行が、新年度に繰り越されている。 やや遅れている研究を確実に進捗させていき、研究計画がカバーする幅広い種類の試料について順序よく実験を進めていく予定である。この進展に則して、時間的な損失が出ないようなタイミングで蒸着装置増設や試料材料の準備を進めるべく、予算執行する計画である。
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