本研究は、超高真空中における原子層精度の製膜技術により、グラフェンまたは六方晶硼化窒素の単原子層と磁性単原子層からなる積層構造を作製するとともに、超高真空下のその場測定環境において、構造評価と放射光磁気分光を一貫して実施するものである。具体的な研究実績は、以下の通りである。 (1) 超高真空下における超薄膜作製環境において、プロピレンガスのクラッキングの手法によりNi(111)単結晶基板上にグラフェンを作製するための製膜条件を探索して、良質な単層グラフェンを得た。また、このグラフェン上へのFeを蒸着と適切なインターカレーションを行うための最適条件を明らかにした。 (2) Grapheneとの界面形成を視野に入れて、磁気デバイスとして活用が有望視されるCo/Au(111)のSTM観察と磁気円二色性分光を行った。 (3) Graphene/Fe/Ni(111)構造について、X線吸収スペクトルとその磁気円二色性スペクトルの測定を行った。Fe層が2ML程度までは、Fe層が強磁性を示すことが確認され、スピン磁気モーメントの増大と比較的大きな軌道磁気モーメントの発現が明らかになった。また、微視的視点から磁気異方性に関する知見を得るとともに、Fe層の磁気状態が膜厚に依存して変化していくことを明らかにした。 (4) Graphene/Fe/Ni(111)構造について、低速電子線回折の定量分析を行い、積層構造の膜厚依存を調べる実験を行った。Fe層の強磁性が安定な極薄膜領域では、基板と整合したfcc積層が実現しており、膜厚増大とともに乱れが増大していくことがわかった。 (5) 超高真空下における超薄膜作製環境において、ボラジンのクラッキングの手法によりNi(111)単結晶基板上にh-BN単層膜を作製するための製膜条件を探索して、明瞭な電子線回折像を示す良質な単層グラフェンを得た。
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