研究課題/領域番号 |
25870469
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
本同 宏成 広島大学, 生物圏科学研究科, 講師 (10368003)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | トリアシルグリセロール / 融液 / 結晶成長 / その場観察 / 分子形状 / 異方性 |
研究概要 |
本研究の目的は,融液中で油脂結晶を育成し,その成長過程を分子レベルで“その場”観察することで,油脂の結晶成長メカニズムを明らかにすることである.観察に必要な大型の油脂単結晶の育成条件を検討した結果,融点直下で成長させることにより,十分な大きさの結晶を得ることが出来た.また得られた結晶を用いて,その表面のステップ前進速度を測定したところ,分子の傾きに応じて速度が異なることが明らかとなった.油脂に限らず融液成長下における分子レベル観察は本研究が初めてであり,融液成長のメカニズムを理解するために重要な結果である.また結晶方位に応じて,結晶への分子の取り込み過程が異なることが示唆されており,複雑な構造を持つ有機分子の結晶成長において,分子の“形”が果たす役割について,今後より明らかになると期待される.この他,油脂結晶表面では二次元核形成が全く観察されなかった.このことは,ラメラ面上に置ける新たな結晶層の形成が困難なことを意味する.結晶構造からも,ラメラ面とその面上の分子の間の相互作用は小さいことが予想されており,実験結果と矛盾しない.加えて過冷却を大きくした場合は,二次元核形成が起きるよりも小さな過冷却度で,結晶が不均一核形成を起こした.すなわちラメラ面上における核形成よりも,他の結晶面上において核形成が容易に起こることを意味する.これらの結果から,油脂結晶が板状の形状をしているのは,分子間相互作用の小さなラメラ面上では二次元核形成が起きず,他の結晶面がより早く容易に成長するためであると考えられる.今後は不純物存在下の結晶成長過程を観察することで,融液成長における不純物の役割を明らかにしていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では二年間に達成すべき目的として以下の4つを挙げている. 1.ステップ速度の過冷却度依存性.2.結晶の異方性による成長速度の違い.3.結晶異方性によるステップ形状の違い.4.無転位結晶表面上における二次元核成長. 様々な温度において結晶表面におけるステップの前進速度を測定することで,目的1を達成した.ステップ速度を測定した結果,過冷却度に応じて単調に速度が増加するのではなく,過冷却度が大きくなると,成長速度は遅くなった.また,得られた結晶の外形から結晶学的方位を決定し,ステップの方向を分類した結果,方向に応じて成長速度が異なることが明らかとなった(2).結晶表面における分子の傾きにより,分子の取り込み速度が異なることが示唆された.これらの詳細について,結晶構造をもとに解析中である.3のステップ形状に関しては,現在のところ有為な差は見られていない.しかしながら低過冷却度において,ステップの形状が変化することが観察されており,今後より詳細に検討する必要がある.4に関しては,無転位結晶の作製に成功していないこと,さらには高過冷却においても二次元核形成が観察されていないことから,実現には大きな課題が残っている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,観察に必要な種結晶として,平坦で20ミクロン以上の厚みのある単結晶を作製する必要がある.昨年度の研究の結果,極小さな過冷却度下で結晶を育成することで,目的とする結晶が得られることが明らかとなった.しかしながら,成長速度を上げるために過冷却度を大きくすると、準安定相が結晶化し,最終的に得られる単結晶の品質に大きく影響することが明らかとなってきた.また,結晶の厚みを増すためには転位の導入が必須であることも分かってきた.これらの理由のため,その場観察に必要な無転位の大きな結晶の育成は非常に困難であり,無転移結晶表面における二次元核形成観察も難しい.そこで今年度は,結晶表面のトポグラフィーを観察することで,結晶成長の様式がラセン成長か二次元核形成かを見極めることも視野に入れて研究を行う.結晶表面のトポグラフィー観察には干渉顕微鏡を用いる.干渉顕微鏡観察により,表面の一点から成長丘が発達する様子がみられればラセン成長をしているといえ,また表面全体で成長する様子が観察されれば,二次元核形成が支配的であると判断出来る.これにより,どの程度の過冷却度により二次元核形成が起きるのかを決定することが出来る. ステップ形状に関しては,現在種結晶の影響を受けており,ステップ形状を議論することが困難となっている.今年度は種結晶の育成に時間をかけ,より単結晶性の高い種結晶を育成する.また同時に準安定相の結晶構造を明らかにするために,準安定結晶の種結晶を作製し,顕微ラマン分光法によりその構造を明らかにする予定である.
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