本研究では、ホスホランバンに特異的に結合し、心筋小胞体へのCa2+取り込みを促進する核酸アプタマーを新たな心不全治療薬として開発することを目的としてきた。前年度までの研究により、種々の細胞膜透過性ペプチドの中で改変型TATペプチドを連結したホスホランバン・アプタマー (mTAT-Apt) が、成獣ラットより単離した心筋細胞の収縮・弛緩の促進効果を示すことが明らかになった。本年度は、mTAT-Aptの効果について、単離心筋細胞およびin vivoでの更なる解析を行い、以下のような成果を得た。 単離心筋細胞において、添加するmTAT-Aptの濃度について検討したところ、2.5μM以上で収縮・弛緩の促進効果を示すことが明らかになった。また、5μMのmTAT-Aptを用いて効果の持続時間を解析した結果、添加後2時間から16時間まで単離心筋細胞の収縮・弛緩の促進効果が維持された。 次に、単離心筋細胞で得られた結果を基に、心不全モデルマウスであるMLPノックアウトマウスを用いてmTAT-Aptのin vivoでの効果を解析した。MLPノックアウトマウスの尾静脈よりmTAT-Aptを投与し、4時間後に心臓超音波検査により心機能を評価した。その結果、mTAT-Apt投与によりMLPノックアウトマウスの心機能の改善効果が確認されたが、一部のマウスでは十分な効果を得ることができなかった。 これらの結果より、mTAT-Aptは新たな心不全治療薬として利用できる可能性が示された。また、生体での安定性や心臓への効率的な輸送方法については、今後さらに検討する必要があると考えられた。
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