本研究の目的は、長期にわたる脳の局所的な冷却が脳神経外科領域における難治性疾患に対していかなる影響を及ぼすかを、行動学的・神経生理学的手法により調べることである。局所脳冷却の至適温度や短期的安全性に関しては、多くの治験を得てきたが、一週間程度の長期に渡る冷却に対する治療効果・安全性に関しては不明であった。 本年度は、昨年度に引き続き、ラット・ネコを用いた動物実験を実施した。ラット実験:脳表温度を15度まで低下させ、5日間の冷却を実施することで、冷却部位選択的に虚血巣が形成され、てんかん様の異常脳波が起きることを観測した。繰り返し実験を実施することで15度での長期冷却は低灌流によって、最終的には虚血を引き起こすことがわかった。また、30度での長期冷却を実施したところ、5日間では、脳虚血や異常脳波は観察されなかった。局所脳冷却による血流の低下は温度依存的であるため、長期冷却においては脳血流モニタリングのような虚血細胞死に至らないような方法を実施することが必要と考えられた。ネコ実験:昨年に引き続き、麻酔下において、各種バイタルを計測することで、24時間の長時間の冷却に対する影響を調べた。24時間の冷却では、虚血巣の形成はなく、復温後も異常な脳活動は確認されなかった。麻酔から回復後、四肢の異常は確認されなかった。 至適冷却温度と冷却時間の関係について、脳血流の長期に渡る低下が、冷却部位の脳実質に及ぼす影響が最も大きく、冷却温度を調整することで、如何に脳血流を維持するかが重要である。一方で、1時間以内短時間の冷却では、脳血流の低下よりも、冷却による神経茶房の保護効果が強くあらわれることで、細胞死に至らないと考えられた。
|