平成26年度は、光異性化特性を有するトランス-p-クマル酸とトランス-フェルラ酸を出発原料とした光活性を示すと予想される化合物を合成し、その殺菌性評価を行った。まず、トランス-p-クマル酸のカルボキシル基をメチル基、n-ブチル基、フェニル基で修飾した化合物を合成し、350-385nm波長の光(ピーク365nm、4.09mW/cm2)照射における光殺菌力の評価を行った。その結果、フェニル基を導入することにより相乗的光殺菌力が高くなることが分かった。さらにその相乗殺菌力には、活性酸素種が関与していることが、カタラーゼによる殺菌力の減少、過酸化水素反応性蛍光プローブの蛍光上昇から示唆された。次に、フェニル基の導入が光殺菌性の上昇に寄与することが分かったので、さらに高い光活性を示す化合物の探索を目的とし、トランス-フェルラ酸のカルボキシル基にフェニル基を導入し、光殺菌力を評価した。その結果、光殺菌力の上昇は認められたが、出発原料であるトランス-フェルラ酸と同程度の相乗活性であり、化学修飾の効果はなかった。そこで、フェニル基の代わりにL-チロシン塩酸塩で修飾することとした。L-チロシンは、フェニル基を有するだけではなく、アミノ基がカチオンであるため、化合物とマイナス荷電の細胞膜との相互作用が強くなると予想された。上記と同様に殺菌試験を行った結果、光を併用した場合、高い殺菌力が得られ、その殺菌力は、化合物濃度が5マイクロMという低濃度であっても光のみの殺菌力と比較し有意な殺菌力の上昇を示した。さらに抗酸化剤を添加した殺菌試験の結果、光併用殺菌には活性酸素種が関わり、フローサイトメトリーによる細胞内活性酸素種の発生レベルを検討した結果、併用殺菌の場合、ヒドロキシルラジカルなどの高い酸化力を有した活性種が細部内に発生していることが分かった。
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