研究開始当初はZfp521欠損マウスの解析に関する報告はなく生体内でのZfp521の役割は未知であったため、Zfp521欠損マウスを作製した。Zfp521欠損マウスはメンデルの法則に従って生まれたが、週齢を重ねるとコントロールマウスに比べて明らかに小型になり、早期に死亡した。 Zfp521欠損マウスは、脾臓、胸腺、リンパ節などのリンパ網内系組織の委縮が顕著であり、リンパ濾胞の形成不良や多系統にわたる血液細胞の分化の異常がみられた。DNAマイクロアレイを用いた網羅的解析ではZfp521と血球系統特異的遺伝子や骨髄微小環境などとの関連性が示唆された。 Zfp521欠損マウスは、多動などの行動異常が見られた。オープンフィールドテストではコントロールマウスに比べ移動距離が増え、中央エリアで過ごす時間が増えるなどの不安行動の減弱が見られた。さらに、学習能力や記憶力の減弱が示唆された。また、同様の結果は高架式十字迷路試験などでも得られた。これらの結果は統合失調症のマウスの行動と類似がみられた。 次に、行動異常に関わる脳の構造変化について組織学的に解析した。Zfp521欠損マウスの歯状回で顆粒細胞の減少や層構造の異常が見られた。胎生19.5日において、コントロールマウスの海馬は正常であったが、Zfp521欠損マウスの海馬は形成不良がみられた。さらに、歯状回と小脳で、神経幹細胞のマーカーであるSox1陽性細胞が減少していた。 以上の結果から、Zfp521は神経幹細胞の分化を制御し、脳歯状回の形成に関わること、マウス個体の行動に関わることが明らかとなった。培養系実験報告ではZfp521は神経細胞への分化に必須でZfp521を欠損すると胎性致死になる可能性が示唆されていたが、私達のZfp521欠損マウスは短命であるものの生存可能であり、発生・分化機構の解明に寄与するものであった。
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