研究課題/領域番号 |
25870493
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩下 靖孝 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50552494)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | コロイド結晶 / 自己組織化 / ナノテクノロジー / コロイド分子 |
研究実績の概要 |
我々は近年注目が高まっている異方性コロイド粒子系の中で、球状パッチ粒子を「コロイド分子」として用い、その凝集・自己組織化の物理的機構を解明することを目的とし研究を行っている。特にそのような粒子の集合的挙動を系統的に解明することを目指している。 平成25年度は実験系を確立し、分散系の自己組織化機構を解明した。平成26年度はそれらの研究をさらに発展させることができた: 1. パッチ粒子を密に充填した六方格子単層において、粒子の回転の自由度のみによる自己組織化を実現した。このときパッチの大きさや溶媒の臨界効果を利用したパッチ間引力の制御により、多様な秩序構造が現れることを見出した。さらに単純な理論モデルを用いた計算機シミュレーションによって実験結果がよく説明できる事がわかり、方向秩序化の物理的機構を解明することができた。本研究は純粋な方向秩序により多様なメソ秩序構造を実際に制御した初めての例であり、新規な系として多様な発展が強く期待できる。 2. 3次元分散系において金属面間のファンデルワールス引力を利用し、大きな金属面を小さな1パッチ粒子で被覆することに成功した。しかし被覆率にはばらつきが大きく、凝集キネティクスの制御が重要であることが判明した。 3. シュツットガルト大学のClemens Bechinger教授との共同研究により、自由に形状を制御可能な樹脂粒子を用いたパッチ粒子を作成し、その特異な構造形成に関する予備的な結果を得た。 このように、「コロイド分子」自己組織化の研究を進展させ、新規な秩序系を実現し、さらに樹脂を用いた新たなパッチ粒子の作成手法を確立した。これらは当初計画以上の成果である。特に1は既に論文として発表し、パッチ粒子系の新たな側面を示した研究として高く評価され、掲載誌の表紙を飾る栄誉を得た。2, 3に関しては平成27年度も継続して取り組む。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度は、平成25年度に確立した粒子作成及び相互作用制御手法を活用することで、25年度の研究成果を大きく発展させることができた。特に粒子が並進の自由度を持たない密充填系において、回転の自由度のみによって多様なメソ構造が形成されることを示し、かつその秩序化機構を解明した。これは従来研究されてきた等方的な粒子にはない異方的な粒子系特有の性質を活かしたものであるが、これまで異方的微粒子系ではほとんど研究されていなかった。よって新規なメソ構造系としてナノ構造制御やその新規機能性への様々な発展が期待できる。ソフトマター分野での国際会議における口頭発表においてもパッチ粒子系の新たな側面を示した研究として高く評価されたほか、当該論文は掲載誌の表紙にも選ばれた。 また樹脂を用いた異方的微粒子作成手法を持つシュツットガルト大学のClemens Bechinger教授との共同研究により、任意形状のパッチ粒子を作成することにも成功した。この系を用いることで、形状の異方性をも利用した多様な発展が期待でき、パッチ粒子の実験系の可能性を大きく広げるものと言える。 金属面の被覆に関しては、3次元的な分散状態における被覆を実現し、目的である微粒子の分散安定化につながる成果を得た。しかし被覆状態にはばらつきが大きく、目指した成果には到達していない。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに当初の想定を上回る成果を得、さらに研究の可能性を広げる新規な系をも確立した。これらに関しても当初計画と基本的な観点は共通しており、さらに研究を進める。テーマ1に関しては3次元系への発展、3に関してはその粒子を用いた構造形成の実験に取り組みたい。 一方、上述した金属面の被覆に関しては、平成26年度は目的とする成果は完全には達成できなかった。しかし問題となる部分(撹拌過程の凝集経路への影響)は絞りこまれつつあり、界面や沈殿の影響を避けつつ穏やかに撹拌する、粒子や塩濃度を最適化するなど、そのプロセスを工夫することで進展させることができると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の8-9月にかけてシュツットガルト大学(ドイツ)のClemens Bechinger教授と関連する共同研究を行った。その際、先方の装置や試料を使用し、かつその後に試料の提供を受けたため、それらの購入費・使用料に想定していた予算が未使用となった。その期間に参加を予定していた国内の学会への旅費も未使用となった。 また当該年度に執筆予定であった論文が次年度にずれ込んだため、その分の予算も未使用となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
共同研究により遅延した実験を行うため、試料(微粒子、蒸着材料、溶媒)などの消耗品の購入及び電子顕微鏡などの共同利用機器の使用料に充てる。また国内の学会への旅費、論文の校正費などにも用いる。
|