研究実績の概要 |
近年、巨大パイ共役系分子に関する合成化学は飛躍的な進歩をとげ、そこから生み出される新機能(有機材料)は幅広い分野から注目を集めている。本研究は申請者が独自に見いだした大環状パイ共役系分子であるノロールに対し、その構造および電子状態の理解を深め、有機材料としての可能性を探ることを主目的とする。また、特定の大環状パイ共役系分子では、環内部での化学修飾によりそのHOMO-LUMOギャップが劇的に縮小する効果が見られており、ノロールにおいてもその効果が見られるかどうかを検討する。 ノロールはN,C-連結ビピロール部位を有する初めての大環状化合物である。N,C-連結ビピロール部位は分子のねじれに対して高い柔軟性を有しており、平面から外れた構造を取りやすい事が分かった。また、sp3窒素原子が芳香族サーキットに含まれる事で、平面性を失っても中程度の芳香族性を常に維持できることが実験的・理論的に明らかとなった。非平面芳香族分子はユニークな分子内・分子間相互作用に基づく機能発現が見込まれており、今後の展開が期待される。 環内部化学修飾では、エテノ架橋型構造を有すると思われる分子の構築に成功した。しかし、HOMO-LUMOギャップが縮小する効果は見られなかった。これは、ノロールの環内部の空間が狭すぎたため架橋部位が平面から大きく外れてしまい、効率的な軌道相互作用が起きなかったためと推察される。一方で、ノロールを直接酸化することで得られるノロール二量体においては、平面から大きく外れた構造をしているにも関わらず二つのノロール環での効率的な軌道相互作用が見られ、共有結合により連結された積層型のパイ平面を構築する事に成功した。今後、パイ平面間の電子移動を研究するモデル化合物としての利用が期待される。
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