前年度までの研究成果を踏まえ、研究計画最終年度たる平成26年度は、これまでの研究成果の公開に力を尽くした。 第一に、平成26年5月24日(土)に大阪大学・豊中キャンパスにて開催された、日本社会保障法学会第65回春季大会において、個別報告を担当した(報告タイトル「社会保障の権利救済 ―イギリス審判所制度の独立性と積極的職権行使―」)。同報告に対しては、研究の方法論や使用された概念に対する批判もあったものの、おおむね好意的な評価を受けることができたと感じている。なお、同報告の内容は、学会誌「社会保障法」30号(2015年)73-86頁に収録されている。 第二に、上記学会報告やそれ以前の研究会報告、公表論文等への批判やコメントを可能な限り反映した形で、研究成果を単著として公表することができた(山下慎一『社会保障の権利救済 :イギリス審判所制度の独立性と積極的職権行使』(法律文化社、2015年)、総頁数324頁、ISBN;978-4589036605)。同書においては、どのような「条件」下において、権利救済を担う機関が、その中立性を冒してでも当事者の一方に寄り添った審理を実施することが許されるのかということを、社会保障法学における当事者の類型的特徴を念頭に置きつつ、解き明かすことを目指した。同書の結論は、端的には、以下のようにまとめられる。すなわち、ここにおける「条件」とは、「権利救済機関の高度の独立性」であり、これが達成されている場合には、権利救済機関がその中立性を冒してでも、積極的に職権を行使することが、社会保障法の領域の権利救済を完全なものにする上で重要であると言える。また、この条件が達成されていない段階における中立性の欠如は、逆に、権利救済の実質化を阻害する危険が大きい。
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