研究課題/領域番号 |
25870508
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北野 載 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30635008)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | カタクチイワシ / 環境応答 / 性成熟 / 産卵 |
研究概要 |
我が国周辺のカタクチイワシは、沿岸(高水温域)と沖合(低水温域)に分布する2群間で、性成熟が開始される体長や産卵開始水温に加え、産卵量、産卵頻度などの繁殖特性値に明瞭な差異が存在することが報告されている。本研究では、本種内でみられる性成熟・産卵形質の多型が「胚発生から性成熟に至る過程で個体が経験する水温の違いにより生じるのではないか?」という仮説を立て、飼育実験による検証を行って繁殖特性値を評価する。 平成25年度は、長崎県大村湾産のカタクチイワシ親魚から採取した受精卵を水槽に収容し、自然水温区(19.3℃~31.7℃)および低水温区(15.2℃~17.3℃)でそれぞれ飼育を行った。孵化後種々の日齢においてそれぞれの試験区から個体を取り上げて体長・体重の測定を行った後に、脳・脳下垂体は次年度に行う生殖関連ホルモン遺伝子解析のために凍結保存した。生殖腺は組織切片作製用に4%パラホルムアルデヒドで固定した。魚体測定と生殖腺組織観察の結果、自然水温区では孵化後60日齢以降、体長50.95mm以上の個体において性成熟が認められた。一方で、低水温区において性成熟が確認されたのは孵化後205日以降、体長62.59mm以上の個体であり、自然水温区よりも大型であった。以上より、本種の性成熟が開始される体長は、孵化後の経験水温に影響を受けることが示された。 上記の自然水温区の飼育実験において、本種の初回成熟過程では卵黄形成過程の卵母細胞が産卵前に退行することを見出した。孵化後75日齢では、性成熟がみられた全ての雌個体において退行卵が認められた。その後は105日齢までに退行卵をもつ雌個体の割合は27.3%まで減少した。以上の退行卵の出現と消失過程の観察結果は、低水温区との比較を行うことで、本種の初回成熟期における繁殖特性評価のための基礎情報となり得るものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初の予定どおり、カタクチイワシ親魚より得られた受精卵を自然水温と低水温それぞれの条件下において孵化させて飼育することで、胚発生から性成熟に到達するまでの成長速度ならびに性成熟体長に及ぼす水温の影響を評価するための基礎データを得ることが出来た。加えて、次年度に行う生殖関連ホルモン遺伝子発現解析のためのサンプル(脳・脳下垂体)を採取することが出来た。しかし、本年度の飼育実験では低水温区の成長が遅く、生残尾数も少なかったために、性成熟以降の産卵頻度・バッチ産卵数などの産卵特性値の収集には至らず、自然水温区との比較については次年度に再度評価を行う必要がある。 上記の結果とは別に、今年度の飼育実験では、当初の目的に加え、初回成熟期の雌において高頻度で退行卵が出現するという繁殖特性に関する新たな知見を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
1)平成25年度の飼育実験で採取した自然水温区と低水温区それぞれのカタクチイワシの脳と脳下垂体において発現する生殖関連ホルモン遺伝子群のmRNA発現時期および発現量の解析を行う。現在までに、3種GnRH(生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン)、Kiss2(キスペプチン)、LH(黄体形成ホルモン)の遺伝子配列情報は整備されているので、これら遺伝子については解析準備が整っている。Kiss1とFSH(濾胞刺激ホルモン)の配列情報は未だ得られていないので、クローニングを行った後に発現解析を行う。 2)前年度に得られなかった自然水温区と低水温区の産卵特性値(産卵水温・産卵量・バッチ産卵数)のデータを得るための飼育実験を行う。 3)それぞれの実験で得られた水温履歴情報、各種繁殖特性値、ホルモン遺伝子発現量の実測値を基に、水温-繁殖特性モデルを構築することでそれぞれの関係性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画当初は設備備品として「実験動物用自動給餌器一式」と「海水冷却装置」を購入予定であったが、準備段階においてこれらの機器類は別途既存で準備されていたものの使用が可能であることが判明したことより、上記備品を購入しなかったので次年度使用額が生じた。 本研究でのカタクチイワシ飼育における機材類の整備はH25年度までにほぼ整った。一方で、H26年度に実施予定である生殖関連ホルモン遺伝子解析における塩基配列情報基盤の一部は今後整備する必要がある。本種が属するニシン目魚類では、これまでの生殖内分泌における分子生物学的解析の事例が乏しく、他の魚種情報を参考にした遺伝子クローニングに困難をきたすことが予想される。以上の理由より、本種で発現する遺伝子配列情報を網羅的に取得するために、次世代シークエンサーを用いた解析を視野に入れて研究費の使用を行う。
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