研究課題/領域番号 |
25870510
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高橋 幸奈 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10596076)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プラズモン / エネルギー変換 / 太陽電池 |
研究概要 |
平成25年度は、新規な光活性有機薄膜の作製法の開発を行った。具体的には、球状金ナノ粒子と高分子色素であるポリチオフェンの両方を電解法で作製する手法を開発した。これによって、従来よりも簡便に、近接場光による光電流増強効果が得られるポリチオフェン電極の作製に成功した。電解重合法では、電荷量によって色素量の制御が可能であり、またパルス電解法によって金ナノ粒子の固定密度の制御も可能であることを明らかにした。これによって、より詳細に金ナノ粒子の近接場光がポリチオフェンの光励起に及ぼす効果の解析が可能になった。この成果は国際誌(Rapid Communication in Photoscience)に発表した。 さらに、ポリチオフェンの光電流に、球状銀ナノ粒子のサイズや固定密度が及ぼす効果についても、実験・理論の両面から検討を行った。その結果、金に比べてクエンチの効果が小さいと言われている銀においても、単層未満の銀ナノ粒子担持量で、近接場光による光電流増強効果が飽和することを明らかにした。この成果は、国際誌(Physical Chemistry Chemical Physics)に発表した。 なお、異方性金属ナノ粒子である金ナノロッドを用いた光電変換系では、プラズモン誘起電荷分離を利用して光電流を得る光電極の開発を行った。酸化チタンを被覆することで電解液系でも安定に駆動するカソード電極および、作製した電極表面にインジウムを融着することで作製した全固体セルのいずれの系においても近赤外光照射によって安定に光電流が観測できることを示した。この成果は、国際学会(the 26th International Conference on Photochemistry (ICP 2013))にて口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高分子色素であるポリチオフェンを用いた系においては、部分的には当初の計画以上に多くの結果が得られた。従来法よりも簡便に各パラメータを制御可能な、金属ナノ粒子と有機色素を組み合わせた電極の作製手法を確立することができた。さらに、作製した有機薄膜光活性電極の分光測定や光電気化学測定、蛍光測定、さらには理論計算によって、球状ナノ粒子の、粒径依存性、密度依存性を明らかにした。これによって、近接場光を利用するための最適な組み込み方に対する指針を得ることに成功した。 また、異方性金属ナノ粒子の安定性向上については、棒状金ナノ粒子である金ナノロッドについてはおおむね成功し、酸化チタンの被覆手法として二種類の手法を組み合わせて被覆することで、500℃という高温での加熱後においても、形状が保持できることを明らかにした。その結果、作製した電極は、近赤外光照射下でプラズモン誘起電荷分離に基づくカソード光電流が得られる光電極として、安定に利用できることを示すことができた。一方で、三角形平板状銀ナノ粒子である銀ナノプレートにおいては、まだ安定性向上のための系の確立を行っている途中である。現時点において、予備実験を行った結果から、解決のための今後の見通しがある程度立っている状態である。 平成25年度に本研究課題によって得られた上記の実験結果は、すでに国際学会において口頭発表1件、さらに国際誌にて2報掲載済であり、着実に成果が上がっている。 このように、当初の予定から一部、前後している部分はあるものの、おおむね順調であると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
ポルフィリン等の低分子色素を用いた検討においては、金属ナノ粒子の有無によって量や状態が変化する、色素の定量的な評価手法の確立や、会合状態の制御が克服できず、現時点で系の確立を行っている段階である。しかし、現在までに取り組んだ予備実験の結果から、FT-IRやRaman分光のような振動分光法を併用することで解決できる見込みがあることがわかった。これらに併せてNMR等の測定手法を組み合わせることで課題を克服していく予定である。 また、プラズモン誘起電荷分離を利用したポリチオフェンの酸化重合製膜法を開発する。この手法では、特に近接場光の効果が強い箇所に高分子色素を製膜し配置できることが期待される。まずは、この手法によって高分子色素の析出が可能であることを、分光的手法および顕微観察等によって確認し、従来系よりも効果的に近接場光を利用できる有機色素光活性電極の作製を目指す。 また、異方性ナノ粒子については、金ナノロッドについては熱的・化学的安定性の向上および光電極への適用という目標をほぼクリアできたため、今後はより不安定な異方性ナノ粒子である銀ナノプレートについて安定性向上に取り組んでいく。異方性ナノ粒子は、球状ナノ粒子よりも強い近接場光が発生できるため、まずは安定性の向上法を確立することで光電変換デバイスへの組み込みを可能にしていく。 これらの問題を1つずつクリアし、条件を最適化することで、最終的に微弱光を有効活用できる光電変換デバイスを構築することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験の順序が一部前後したため、当初計画していた消耗品の一部について、購入が次年度に繰り越されたため。また、当初購入を予定していたポテンシオスタットについて、購入機種の変更をしたことに伴い、制御装置の選定に時間を要し、購入および納品が次年度に繰り越されたため。 昨年度に購入したポテンシオスタットの制御装置を購入する。また、当初予定していた実験の遂行に伴う試薬やガラス器具などの消耗品を購入する。
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