前年度までの検討においては誘発磁場(数十回の刺激に対する脳反応を平均して評価する方法)に注目して痛み受容の変化を検討したが、近年では神経活動の“ゆらぎ”(ミリ秒単位で刻々とゆらぎ変化し、平均すると打ち消しあって消えてしまう)が注目されている。本年度は触覚による痛み緩和の脳内基盤をさらに確立するため、脳磁計(MEG)を用いて神経磁気振動のゆらぎを検討した。健常被験者11人を対象とし、まず前年度までと同様に痛覚+触覚刺激下で脳磁場反応を計測した。2つの刺激の間隔を変えることにより、脊髄レベル及び皮質レベルでの痛み緩和が生じる時の脳活動を比較した。最小ノルム法で解析を行い、2次体性感覚野及び島皮質に着目し、誘発波形としてみた抑制効果を確認した。さらに、これに対応する神経活動のゆらぎを時間周波数解析により抽出・検討した。結果、誘発波形で評価した抑制効果は、脊髄レベル条件・皮質レベル条件ともに有意差なく認められた。ゆらぎの評価では、脊髄レベル条件では触覚単独の情報処理と類似のパターンを呈したのに対し、皮質レベル条件では触覚・痛覚の混合ないしは固有のパターンを呈した。脊髄レベルの痛覚抑制条件のゆらぎパターンは痛覚刺激の求心性入力が大脳皮質まで到達しなかった可能性を示唆すると考えられる。一方、皮質レベル条件におけるゆらぎパターンは中枢で相互作用が生じていることを反映しているものと考えられた。これらの結果は、脊髄と大脳皮質における異なる痛覚緩和メカニズムを支持するものと考えられた。
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