前年度は紅茶色素テアフラビン類の酵素酸化反応機構を明らかにしたが、実際の紅茶製造過程において自動酸化などの非酵素的酸化も受けていると考えられる。そこで、テアフラビン類の中性条件下における酸化機構について検討した。3位にガロイル基を持つものは、ベンゾトロポロン環が酸化を受けてナフトキノン構造に変化後、さらに酸化を受けてクマリン構造を持つ生成物が生じたが、3位にガロイル基を持たないものは、ナフトキノン構造のものは生成せずに二量化が起こってビステアフラビン類が生成することが分かった。さらに、実際の茶発酵過程においてナフトキノン構造を持つテアナフトキノン-3'-O-ガレートが生成していることが初めて確認された。 茶葉の主要カテキンであるエピガロカテキン類は酵素酸化を受けると、主生成物としてデヒドロテアシネンシン類、テアシトリン類、プロエピテアフラガリン類などが生じる。テアシトリン CのECDスペクトルおよびNMRケミカルシフトのDFT計算により、これまで未決定であった立体構造を決定した。さらにプロエピテアフラガリン類についても同様に立体構造を再度検討した結果、これまでに提唱されていた立体構造が一部誤りであることを明らかにした。 ほうじ茶の製造過程において生成する高分子ポリフェノールの生成機構解明を目的として、糖のカラメル化化合物として知られるヒドロキシアセトンまたはメチルグリオキサール共存下においてエピガロカテキン-3-O-ガレートを加熱処理した。得られた高分子生成物の13C-NMRスペクトルから、糖のカラメル化化合物と茶カテキン類との重合反応によってほうじ茶高分子ポリフェノールが生成していることが示唆された。 以上、本研究によって紅茶およびほうじ茶の製造過程における茶葉ポリフェノール成分の化学変化機構について重要な知見を得ることができた。
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