本研究は、貧困問題の中でも、特に個人のライフチャンスに深刻な影響を与える「乳幼児期の貧困」の構造を明らかにし、その解決に向けた社会的支援のあり方について検討するものであった。保育所を利用する保護者へのアンケート調査とインタビュー調査によって、乳幼児期の貧困状況を明らかにする、日本でも数少ない研究結果を得ることができた。 最終年度である2015年度は、保育所における保護者へのアンケート調査の分析・まとめと保護者へのインタビュー調査を行った。アンケート調査の結果から、「乳幼児の養育環境の不平等」の一端を明らかにすることができた。親の収入に応じて、子どもの衣食住の日常生活や予防接種をする頻度、通院機会などに差が見られた。低所得層(年収300万以下)においては、生活が大変苦しい(13%)、住居がとても狭い(16%)、病院に行けない(8%)、相談相手がいない(2%)という回答が一定数あり、突然の出費のための貯金が不十分な人が7割を超えていた。インタビュー調査からは、貧困にある家庭では、経済的・時間的・精神的余裕が失われ、子どもにていねいに関わることが困難であることがわかった。また、現在の日々の生活については大きな支障はなくとも、低所得であるがゆえに貯蓄ができなかったり、学資保険ができなかったりするということがあり、保育料や医療費が免除・軽減されている現状は何とかなっているものの、将来が不安だという声が多かった。こうした状況を改善するための支援体制として、保育所を拠点とすることが有効であると考えたが、保育所を利用する親からは、保育所の先生方は多忙であり、必ずしも気軽に相談できる場ではないという声があった。今後、貧困状況にある乳幼児とその家族を、どこで・誰が・どのように支援するか、その検討が必要である。
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