研究課題/領域番号 |
25870534
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
郭 朝万 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 研究機関研究員 (70645283)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNA修復 / ヌクレオチド除去修復機構 / UVSSA / ユビキチン化 |
研究概要 |
ヌクレオチド除去修復機構(NER)は、生体に備わっているDNA修復機構の中でも多能な機構であり、紫外線による光DNA損傷や環境変異原による付加型DNA損傷をDNA鎖から除去する。ヒトにおけるNERの先天的欠損は、皮膚がんを好発する色素性乾皮症や神経疾患、早老症等を発症するコケイン症候群などの重篤な遺伝病を誘発する。研究代表者の所属研究室は2012年、NERの先天異常の一つである紫外線高感受性症候群(UVSS)の新規責任遺伝子としてUVSSAを同定した。UVSSAはCS複合体と協調して、転写型RNA polIIoの機能的なユビキチン化による安定性制御及びTC-NERの正常な進行に関わることが示された。本研究は、この新規NER因子の機能解析を行うことにより、DNA損傷箇所で停止したRNA polIIoのユビキチン化によるバックトラッキングのメカニズムを分子レベルで解明することを目的とする。 現在、UVSSAをはじめとするTC-NER開始反応に必要と考えられる各種DNA修復関連蛋白質とRNA polII複合体を網羅的に精製している。転写と共役したNER(TC-NER)過程のユビキチン化反応に必要なE3リガーゼとその補助因子の同定にも取り組んでいる。DNA損傷後の細胞分画試験により、RNA polIIoのユビキチン化反応がDNA損傷依存的にクロマチン内で起きているかについても検討している。これらの解析後、in vitro転写系の構築を進め、DNA損傷処理を行ったプラスミドの試験管内転写を最少反応系でおこない、その過程でpolIIoのユビキチン化がUVSSAと一連のユビキチンリガーゼ複合体に依存して起こるかどうかを詳細に検討する。さらに、ユビキチン・E3リガーゼ・基質複合体の共結晶化とその構造解析に取り組み、TC-NER開始反応を構造生物学的な視点で解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA polIIoユビキチン化のメカニズム解明のため、in vitro再構成系を確立するために必要なTC-NER関連蛋白質の精製は順調に進んでおり、残りの蛋白質の精製も十分に可能であると考えられる。当初、この過程は25年度に実施する予定であったが、蛋白質精製には膨大な時間を要する事から、次年度も引き続き取り組む事とし、現在も再構成系構築に向けて順次精製を進めている。また、NER活性を阻害するUVSSAの機能性ミュータントを新たに同定した。in vitro再構成系構築後、この機能性ミュータントによる影響についても詳しく調査する予定である。正常細胞、コケイン症候群患者由来細胞、紫外線高感受性症候群患者由来細胞を用いた、FRAP法(fluorescence recovery after photobleaching)によるDNA損傷処理後のDNA鎖上でのRNA polIIoの滞留時間の差異の検討、及び、FRET法(fluorescence resonance energy transfer)によるRNA polIIoとTC-NER開始反応因子群やTFIISとの蛋白質相互作用ダイナミクス解析についても、現在解析に向けて条件検討を進めている。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
RNA polIIoユビキチン化の分子メカニズムの詳細解明のため、未精製のTC-NER関連蛋白質の精製を実施する他、正確な結果を得るためより純度の高い蛋白質を精製できるよう配慮したいと考えている。関連蛋白質の精製が終了次第、in vitro再構成系構築に取り組む。DNA損傷後のRNA polIIoの挙動を明らかにするため、FRAP法およびFRET法実施の条件検討を済ませた後、DNA損傷修復時におけるRNA polIIoと他のTC-NER因子との相互作用のタイミングや、ユビキチン化RNA polIIoのバックトラッキング反応、患者細胞におけるDNA損傷後のRNA polIIoの分解/滞留等を詳細に調査する。 さらに、TC-NER開始反応におけるUVSSAのより詳細な機能を解明するため、「UVSSA蛋白質による機能的なユビキチン化」を調節する因子の特定にも取り組む。
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次年度の研究費の使用計画 |
当課題において、RNA polIIoユビキチン化のメカニズム解明のためには、in vitro再構成系の確立が必要であり、TC-NER関連蛋白質の精製は極めて重要である。当初、この過程は25年度に終了する予定であったが、多数のNER関連蛋白質の精製には膨大な時間を要しており、現在も精製を進めている。本過程における、精製蛋白質のクオリティが、今後の研究に大きく影響することから、基礎的な再構成システムの準備に力を入れており、機能解析の進行が予定より少し遅れたために未使用経費を生じた。 次年度は、in vitro再構成系を実現させるため、TC-NER関連蛋白質の精製及び細胞培養に用いる消耗品類、プラスチック器具類、トランスフェクション試薬等の購入に未使用の経費を充てる。また、再構成系を確立後の機能解析のため研究費も確保する必要がある。
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