研究課題/領域番号 |
25870544
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐藤 晴香 熊本大学, 発生医学研究所, 研究員 (70625780)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 大脳皮質 / 領野 / 視床軸索投射 |
研究概要 |
本研究は、領野特異的な層構造の形成において視床軸索投射が果たす役割の解明と、その作用実体となる視床軸索由来分子の同定を目的としている。平成25年度には主に、視床軸索量を操作したときの領野層構造の変化の解析と、その原因となる現象の解明を目的とした解析を行った。まず、視床軸索量を安定的に操作するために、視床にジフテリア毒素受容体を特異的に発現する遺伝子改変マウスを作製し、毒素投与を行って視床ニューロンを死滅させることで視床軸索を除去する系を確立した。このマウスでは特に一次体性感覚野において視床軸索量が著しく減少するが、このとき本来この領野で厚く発達しており視床軸索の標的層でもある第4層のニューロン数が減少することがわかった。一方、第5層には変化が見られなかった。そこで、視床軸索減少時に第4層ニューロン数が減少する原因を解明するために、第4層ニューロンの細胞死や、第4層から他の層への細胞運命転換が起こっているかどうかなどについて解析した。次に、視床軸索による領野特異的な層構造の形成を担う分子実体を明らかにするために、視床軸索除去マウスにおいて視床軸索由来分子NRN1とVGFを大脳皮質へ異所発現させることにより再供給したときに第4層が回復するかどうかについても解析を行っている。また、視床軸索ガイダンスを操作することにより投射トポグラフィーを変化させた時の領野層構造の変化を解析するために、軸索ガイダンス分子のマウス胎児の終脳腹側への遺伝子導入にも着手している。 以上、これまでの研究により領野特異的な層構造の形成において視床軸索は第4層の形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなり、そのメカニズム解明に向けたさらなる解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度には、視床軸索量を増減させた時の領野層構造への影響の解析と視床軸索由来分子の領野層構造における機能解析を計画していた。前者については、遺伝子改変マウスを用いた生体内で視床軸索を効率的に除去する実験系を確立し、前述の通り第4層の形成異常という表現系が見られた。また、この表現系を引き起こす原因として考えられる細胞死や細胞運命転換など複数の要因について詳細な解析を進めた。一方、視床軸索を増加させた時の領野層構造への影響を調べるために、予備的実験からニワトリ胚で視床ニューロンを増加させることが分かっていたWntシグナルをマウス胎児視床において活性化させた。しかしながら、Wntシグナル活性化による視床ニューロン数の増加は見られなかったため、視床軸索が増加した時の領野層構造への影響は解析できていない。後者の計画については、視床軸索が除去された遺伝子改変マウスに対して子宮内電気穿孔法を用いた大脳皮質への視床軸索由来分子NRN1とVGFの過剰発現を行った。遺伝子導入条件の最適化を含め、解析を進めている。Nrn1とVgfのノックアウト(KO)マウスの解析は他の実験を優先したため遅れているが、マウスの入手準備を進めている。これら平成25年度の計画に加えて、平成26年度に行う予定であった視床軸索ガイダンス分子の発現操作による投射トポグラフィーの変化による領野層構造の形成への影響の解析実験に着手した。子宮内電気穿孔法により軸索ガイダンス分子の遺伝子導入について条件検討を行い、マウス胎児終脳腹側への導入に成功した。 以上より、平成25年度に予定していた計画の大部分について実験を行い、部分的にすでに成果を得て学会発表している。また、平成26年度に予定していた計画についても部分的に着手していることから、計画はおおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成25年度に予定していた視床軸索由来分子の領野層構造の形成における機能解析を完了させる。遺伝子導入条件の最適化により視床軸索除去マウスにおける大脳皮質への分子の過剰発現を効率的に行い、視床軸索由来分子の再供給により第4層形成異常が回復するかどうか解析を進める。また、これら分子のノックアウトマウスを早期に入手し、ダブルノックアウトマウスを作製して領野層構造を解析する。また、平成25年度に引き続いて視床軸索除去時に第4層が減少する原因をさらに追及するために、当初の計画に加えて、アポトーシスによる細胞死が起こらない遺伝子改変マウスを利用して領野層構造の形成における細胞死の関与を検討する。これらの実験とこれまでの成果により、視床軸索が領野特異的な層構造の形成に果たす役割とそれを担う分子メカニズムの解明を目指す。また、視床軸索投射が領野特異的な層構造の形成に関与することを軸索量操作とは別の方法でも検討するために、視床軸索ガイダンスを操作して投射パターンを変化させたときの領野層構造への影響を解析する。そのために、前述のマウス胎児終脳腹側でガイダンス分子を過剰発現させたサンプルについて、軸索投射パターンの変化に伴って領野層構造に変化が起きているかどうかを解析する。さらに、各感覚への依存度に応じて領野の大きさを多様化させてきた哺乳類の大脳皮質の進化メカニズムに迫る目的で、末梢の感覚ニューロン数が領野層構造に与える影響を調べる。そのために、網膜神経節細胞数が増大する遺伝子改変マウスの領野層構造を解析する。以上の方策により、視床軸索による領野の層構造特異化メカニズムの解明という本研究目的の達成を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に予定していたNrn1-KOマウスとVgf-KOマウスの2種類の遺伝子改変マウスの導入を次年度に遅らせたため、それらの購入費用および本学動物飼育施設への導入に伴う検疫費用を次年度に持ち越した。また、実験データの定量解析を行う実験補助員の雇用をより多くの解析作業が必要になると予想される次年度にまとめて行うことにしたため、そのための人件費を次年度に繰り越した。以上の理由により次年度使用額が生じた。 平成25年度から繰り越した予算を使用して視床軸索由来分子であるNRN1とVGFのKOマウスを入手し、これらのダブルKOマウスを作製する。これら分子が欠失したときの領野層構造の変化を解析することで、視床軸索による領野層構造の形成が視床軸索由来分子によって担われているかどうかを調べる。また、平成26年度には視床軸索除去マウスにおける視床軸索由来分子の過剰発現、Nrn1とVgfのダブルKO、アポトーシス欠損、視床軸索投射トポグラフィー操作、感覚ニューロン数の増大などさまざまな条件下での領野層構造の変化を解析する予定であるため、繰り越し予算を使用して第4層ニューロン数の変化などの定量解析を行う実験補助員を雇用する。以上の通り次年度使用額を使用する計画であり、当初の次年度予算の使用計画とあわせて研究を遂行していく。
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