研究概要 |
日本人に多いHLA-B*35:01は、日本人HIV-1感染者のエイズ病態進行に関連がある。我々はこれまでに B*35:01陽性HIV-1感染者について、日本人とアフリカ人のコホートを比較し、HIV-1増殖抑制に重要なHIV-1 Gag特異的細胞傷害性T細胞(CTL)反応が日本人感染者では欠如していることを示した。しかしながら、これらの日本人コホートでは、この重要なCTL反応が見られないにもかかわらず、ウイルス量が低く制御されている B*35:01陽性感染者も存在する。本研究では、ウイルス感染制御に関与するCTLを見出し、それらのCTL機能の解析を行った。 B*35:01拘束性エピトープペプチド16種類(Nef 3, Gag 4, Pol 5, Rev 1,Env 3種類)に対するex vivoの反応を無治療B*35:01陽性サブタイプ B慢性感染者63人のPBMCを用いてIFN-gamma Elispot assayにより検出し、これらの個々のエピトープ特異的CTL反応の有無と血漿中ウイルス量との関係を解析したところ、Gag NY9, Pol VY10, Nef RY11およびYY9エピトープに対する反応を示した感染者は反応を示さなかった感染者に比較し優位に低いウイルス量を示していた(p<0.05)。さらに、これらの4エピトープに対する反応の頻度が高いほど、ウイルス量が低いことが明らかになり、個々の反応より、いくつかのエピトープに対する反応が重なったことで、生体内ではウイルス増殖抑制の相乗効果が得られたと考えられた。 更に、これら4つのエピトープ内にはB*35:01陽性感染者に優位に蓄積が見られた2つの変異を認めた(Pol VY10-6E, Nef RY11-11F)。しかしながら、変異ペプチドに対するCTLは野生型に対するものと差がなく、交差反応を示していた。この結果から、これらのエピトープは変異してもなお、ウイルス増殖に重要な役割を果たしていると考えられる。本研究は生体内でHIV-1増殖抑制能を有するCTLを誘導する治療開発に重要であり、予後が悪い感染者の今後のHIV-1治療に役立つものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予後の悪い無治療B*35:01陽性サブタイプ B慢性感染者63人のPBMCを用いてB*35:01拘束性エピトープペプチド16種類に対するex vivoの反応を IFN-gamma Elispot assayにより検出し、 Gag NY9, Pol VY10, Nef RY11およびYY9エピトープに対する反応 がHIV-1増殖抑制に重要な役割を果たしていることを見いだした。 さらに、 HIV-1のアミノ酸配列解析により、 B*35:01特異的な2つの変異が重要な4つのエピトープ配列に蓄積されていたが、これらの変異は、CTL反応に影響しないことが明らかになった。 以上のように、平成25年度の研究計画は、ほぼ計画通りに進んでおり、達成度はおおむね順調に進展していると考えらる。
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今後の研究の推進方策 |
HIV-1アミノ酸変異 解析:平成25年度はエピトープ内のB*35:01陽性感染者に特異的に蓄積した変異に焦点を当てて解析を行った。今年度は、 平成25年度の研究結果から明らかとなったウイルス増殖抑制に重要な役割を果たしているGag NY9, Pol VY10, Nef RY11およびYY9エピトープ特異的CTLに着目し、B*35:01分子の有無に関連のない変異によるCTL反応の低下、および、エピトープ隣接配列(前後5アミノ酸以内)における変異のCTL反応に及ぼす影響を明らかにする。CTL反応を示していない感染者ではこれらの変異がありエピトープがプロセシングされず 抗原提示が起こらない可能性が考えられる。 In vivoでのCTL相乗効果の解析:生体内で実際にいくつかのCTLの相乗効果により、抗原を排除するシステムが働いていることを解明する。そのためにマウスの実験動物の系を用い、数種類のCTLを誘導し、マウスに移入し、抗原に対する細胞傷害活性能 と 細胞増殖能 を細胞内 IFN-gamma 染色とCFSE dilution assayを組み合わせた方法により検出する。 以上、平成25年度、26年度に得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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