本年度は、昨年度に得られた分析結果を学会で報告するとともに、国際共同研究を進展させ、今後の研究領域の創成を行った。 研究期間全体を通じて得られた一番の大きな成果は、医師が勤務する地域を自由に選ぶことができる状況下においては、医師の供給量を増やすことでかえって都市部で活動する医師の割合が増加してしまうことが理論的に明らかになったことである。また、医療技術や輸送技術の発達により地域を超えた医療が活発になるほど、この現象が加速化されてしまうことも明らかになった。従って、医師の偏在はただ単に医師を増やせば良いというものではなく、医師を地方に誘導するような何らかの施策が必要である。 もう一つの成果としては、医療のグローバル化によって所得の高い地域の医療水準は向上するが、その一方で所得の低い地域の地方財政を圧迫させ、その地域の所得再分配の効果を弱めてしまうことを明らかにしたことが挙げられる。 これらの分析にあたり、ノルウェー経済大学の研究者の協力を受けた。この研究者との議論の中で、ヨーロッパでは公的医療機関の受診に際する待ち時間の長さから、公的医療保険が適応されない民間医療への需要が高く、医師は高給を求めて、公的医療機関ではなく民間医療機関に勤めることが問題になっていることが分かった。そこで、本研究課題で得られた成果を発展させることで、この問題に関する理論的な分析を現在、国際共同研究で取り組んでいる。
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