研究課題
若手研究(B)
小胞体は分泌タンパク質や膜タンパク質などの多くのタンパク質が正常に立体構造をとる場であり、その機能破綻は折り畳み異常タンパク質の小胞体内での蓄積につながる。このような小胞体ストレスに対抗するために真核細胞では、正常な折り畳みを促進したり、新生タンパク質の合成を抑制することでタンパク質の小胞体への送り込みを減少したり、また折畳み異常タンパク質を分解させるシグナルが働き生存できる。しかし、長期にわたって過度な小胞体ストレスにさらされると、これらの応答では対応できず、細胞はアポトーシスを誘導する。近年、糖尿病や虚血性疾患、神経変性疾患において小胞体ストレス誘導性アポトーシスが注目を浴びている一方、がん細胞においては小胞体ストレスに対する生存シグナルを活用し細胞増殖を促進することがわかってきたが、詳細な分子機構については不明である。そこで、本研究では小胞体ストレスシグナルの重要性が未だ詳細に研究されていない口腔がんに着目し、その関与を明らかにし、創薬標的を探索する。これまでに確立している小胞体ストレスマーカー(小胞体受容体IRE1や小胞体シャペロンBiP)に対する特異的抗体を用いて、口腔がん培養細胞におけるUPRの関与、転移能・悪性度と小胞体ストレスシグナルの関係を検討した。また、小胞体品質管理機構や小胞体ストレス誘導性アポトーシスにおけるがん細胞と正常細胞の差異を明らかにすることにより、小胞体ストレスの観点から見たがん細胞の特徴を観察した。さらに、IRE1、小胞体品質管理に関わる分子Derlin-1およびアポトーシス実行因子ASK1のがん病態進行・転移における関与を、KOマウス・阻害剤を用いて検討した。これらの解析により、小胞体ストレスを介した細胞の生と死のシグナルにおける口腔がん治療の標的や、がん疾患克服のための応用研究に向けた研究基盤のための予備的知見を得られた。
1: 当初の計画以上に進展している
小胞体ストレスに関する研究は、小胞体受容体IRE1のクローニングに始まり、ここ数年で小胞体関連分解(ERAD)構成分子、小胞体ストレスシグナル伝達分子、そして申請者らがこれまで精力的に研究してきたアポトーシス実行因子など、飛躍的に進んできた。これらの分子を介したシグナル伝達は、全ての真核生物に共通した現象であるが、その一方で、様々なコンフォメーショナル病における解析から、小胞体ストレスに対する細胞応答は、組織・細胞種特異性が極めて高いことが明らかになっている。一方で、がん組織においてもその「個性」が近年注目されてきており、その個性を標的として新薬を開発する試みがなされている。その点で、小胞体ストレスという観点からがんの特徴を捉えようとする本研究は独創的であり、創薬モデルの開発という点で意義深い。これまで神経変性疾患などに関する研究を行ってきた実績、さらに小胞体ストレスシグナルに関連する分子群のKOマウスを既に作製していることから、本研究分野において世界に先んじた研究を行っていると確信している。また口腔がんの特徴と創薬への可能性を明らかにすることで、重大な口腔機能喪失をもたらす口腔がんの克服に近づくと考えている。本研究で明らかとなった知見は研究計画以上の成果である。
本年度は最終年度でもあり、小胞体ストレスシグナルに関するin vivo解析を中心に行う。まず、抗がん剤ボルテゾミブ作用機序に関する検討を予定している。幾つかの抗がん剤が小胞体ストレスを誘導することが報告された。しかし、このような作用が抗がん剤としての本来の作用機序なのか、サイドエフェクトなのかは不明である。多発性骨髄腫の治療薬ボルテゾミブが小胞体ストレス誘導性アポトーシスを誘導することが明らかになり、抗がん剤標的としての小胞体ストレスシグナルが注目されているものの、この薬剤の作用機序、分子標的は不明である。そこで、小胞体ストレスシグナルをがん治療標的として確立するためのプロトタイプとしてボルテゾミブ作用機序を生化学的に解明する。また、口腔がんに対する適応を視野に入れ、扁平上皮がん・腺がん移植マウスへの投与により、その効果を評価する。また、発がん・口腔がん転移と小胞体品質管理機構に関する検討も行う。小胞体ストレス依存的増殖シグナルには、小胞体関連分解(ERAD)を介した小胞体品質管理機構が不可欠である。そこで、最近作製完了したDerlin-1(ERAD必須分子)コンディショナルKOマウスを用いて、in vivoでの評価を行い、新たな創薬に向けた研究基盤を確立する。さらに、発がん・口腔がん転移と小胞体ストレス誘導性アポトーシスシグナルに関する検討も行う。ASK1を介したアポトーシスシグナルの抑制はがん細胞増殖のメカニズムの一つと予想されるが、がん細胞転移・浸潤の観点からは、宿主側ではむしろアポトーシスがポジティブに作用していることも予想される。そこで、これまで解析してきたASK1 KOマウスに、扁平上皮がん、腺がんを移植する実験により、口腔がん転移・浸潤への影響を評価する。
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