熱帯林の共生樹種の共存機構を知るためには、各樹種の土壌環境への適応メカニズムを明らかにする必要がある。そこで、本研究では、細根特性の観点から、熱帯林構成樹種の土壌環境への適応メカニズムを明らかにすることを目的とした。パソ森林保護区において、2013年度にMacaranga属6種120個体、Shorea属9種217個体を選定し、各個体の位置およびサイズを記録した。また、これらの個体のうち、Macaranga属5種44個体、Shorea属8種75個体について、2014年度に林冠における光量と周辺の土壌窒素無機化速度を、2015年度に周辺の土壌粒径組成を測定した。2015年度には、Macaranga属5種43個体とShorea属8種72個体について、細根形態を測定した。その結果、林冠における光量、周辺の土壌粒径組成ともに、いずれの属でも樹種間差が確認された。一方、個体周辺の土壌窒素無機化速度については、Macaranga属でしか樹種間差が確認されなかった。このことから、光や水分についてはニッチ分割が起こっているものの、土壌養分におけるニッチ分割は属によって起こっているものとそうでないものが存在することが示された。また、細根形態については、Macaranga属でのみ細根直径における樹種間差が確認され、Macaranga lowiiの細根は他の樹種よりも細いことが明らかとなった。細根形態の差異(Macaranga lowiiで他の樹種よりも直径が小さくなること)は光環境との関係がみられ、光量が低い環境で生育するMacaranga lowiiは細根が細くなることが明らかになった。細根の形態は土壌環境ではなく光環境と関連し、光量が低くバイオマス生産効率が悪い樹種では、細根を細くし、土壌資源の吸収効率を高めることが考えられた。
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