研究課題/領域番号 |
25870575
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研究機関 | 青森公立大学 |
研究代表者 |
大石 尊之 青森公立大学, 経営経済学部, 准教授 (50439220)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 仲介取引 / 競争市場 / 派遣労働市場 / ミクロ経済学 / 労働経済学 / アルゴリズム / 国際研究者交流 / オランダ |
研究実績の概要 |
本年度は平成25年度の研究成果であるOishi and Sakaue(2014, Mathematical Economics Letters, Vol. 2, iss. 1-2, pp19-26)で構築した仲介取引のある非分割財競争市場の基礎モデルを発展させて, 派遣労働市場への応用を目指すための基礎理論および安定的な3サイドマッチングのアルゴリズムを作成した. Oishi and Sakaueモデルでは売り手, 買い手および仲介人の効用は貨幣で測られており, 効用はサイドペイメントしての貨幣を通じて譲渡可能であることが仮定されていた. しかし, このようなモデルの仮定は所得効果を無視しているので, より一般的なサイドペイメントなしの非分割財の仲介市場モデルを構築することが派遣労働市場の分析には欠かせない. このようなモデルを作成することは, Oishi and Sakaueモデルを数学的に一般化することになる. そのためのより発展的な市場均衡分析やマッチングの工学的手法を学ぶためアムステルダム自由大学のGerard van der Laan教授のもとで訪問研究者として滞在し, 最新の研究手法を修得した. その際の成果として, まだ未公刊であるがアムステルダム自由大学のJia-Ping Huang博士と共同論文を現在執筆しており, この研究の中でサイドペイメントなしの非分割財の仲介市場モデルを考察し, 安定的なマッチングをみつけるための新しいアルゴリズムを提唱した. このアルゴリズムは3次元確率行列に関するあるアルゴリズムとみなすことができる. また, オランダ滞在中に国際的な計量経済学・理論経済学の研究機関の1つであるティンバーゲン研究所にて, 当該の研究テーマを報告し, 現地の多くの研究者たちと活発な議論を行い, 当該の研究遂行に役立てることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に開発した非分割財の仲介市場モデルを一般化して, 派遣労働市場の分析に適切なモデルを作成し, 仲介人による売り手・買い手間の安定的な組み合わせをもたらすプロセスをアルゴリズムで与えることができるようにすることが, 平成26年度の研究計画の内容であった. この研究を遂行するためにまず, より発展的な市場均衡理論やマッチングの工学的手法を学ぶ必要がある. そのためにオランダのアムステルダム自由大学エコノメトリックス&オペレーションズ・リサーチ学部のGerard van der Laan教授のもとで訪問研究者として滞在し, 当該研究テーマに関する最新の研究手法を修得した. その成果として, アムステルダム自由大学のJia-Ping Huang博士との共同研究が挙げられる. この研究の中で, 譲渡可能性効用を仮定しないきわめて一般的な非分割財の仲介市場モデルを考察し, 仲介人による売り手・買い手間の安定的な組み合わせをもたらすアルゴリズムを, 3次元確率行列に関するあるアルゴリズムで特徴づけることに成功した. この研究成果は現在未公刊だが, 次年度において海外の国際学会等での研究報告を予定しており, 次年度での国際学術専門誌への掲載を目指している. また, オランダ滞在中に国際的な計量・理論経済学の研究機関の1つであるティンバーゲン研究所にて「非分割財を扱うシャープレイ・シュービック競争市場における仲介人について」という題目で当該研究テーマについて研究報告を行った. 以上から, 研究成果を雑誌に掲載された論文の形でまとめることができなかったものの, 海外での在外研究および研究報告を通じて, 平成26年度の研究計画自体はおおむね順調に達成できていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に考察した, 譲渡可能性効用を仮定しないきわめて一般的な非分割財の仲介市場モデルと仲介人による売り手・買い手間の安定的な組み合わせをもたらすアルゴリズムを, より洗練させることが必要である. 例えば, このアルゴリズムは仲介市場ゲームから作成した平衡ゲームに属するすべての利得ベクトルについて, 3次元確率行列を用いて, 有限回のステップで計算を行う必要があるが, アルゴリズムを適用する利得ベクトルの範囲を絞り込むことによって, より簡便なアルゴリズムを作成することができる可能性がある. このような簡便なアルゴリズムを通じて, 派遣労働市場における効率的でより円滑な労働者と派遣先企業間のマッチングの作成方法を与えることができると考えられる. 一方, 非分割財の仲介市場モデルを用いて, 人と働き場所の最適な組み合わせと市場の公正な分配機能が両立するかどうかを調べることも重要な検討課題である. 近年, 日本で派遣労働市場において, 公正な分配機能の停滞が問題になっているが, マッチメイカーとしての仲介人がうまくマッチングのコーディネーションを行うことで, 公正な分配がもたらされるかどうかは解明されていない. この問題の解明を通じて, 日本の派遣労働市場の取引主体間のミスマッチと不公正な取引を解消し, 労働市場を活性化するための政策提言に向けた理論的根拠を与えることができると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
オランダのアムステルダム自由大学(VU University Amsterdam)で在外研究を行い, 当該研究テーマに関連する最新の研究手法を修得し, 現地の海外研究者の協力を得ながら当該研究テーマに関する研究を行うことを主たる目的として, 平成26年度の助成金を使用させていただいた. 海外での研究研修および研究報告を目的とした助成金の使用は, 平成25年度の事業実施状況報告書に記した平成26年度助成金使用計画に沿ったものである. このため大部分の平成26年度助成金は適切に使用できたものの, 結果的に5万円の平成27年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は当該助成事業の最終年度であるので, 研究成果を論文としてとりまとめ, 国内外の学会・ワークショップで研究成果を積極的に発信する予定である. 現在, アムステルダム自由大学のJia-Ping Huang博士と行っている当該研究テーマに関する共同論文を, 平成27年の秋にドイツで開催される国際シンポジウム The 8th International Symposium on Algorithmic Game Theoryに投稿中である(報告者は大石). 主催者側の査読審査を受けて, 発表が許可されれば, 研究報告のための海外渡航を計画している. 当該助成事業の最終目標の遂行に向けて, 適切に研究費を使用する予定である.
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備考 |
大学公式のホームページの教員紹介において, 当該助成事業関連の研究成果を随時更新し, 広く国民に研究成果を公開している.
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