研究実績の概要 |
最終年度は、前年度の研究成果であるOishi and Sakaue (2014, Mathematical Economics Letters)で構築した仲介取引を伴う競争市場の基礎モデルをさまざまな形で拡張、発展させて、派遣労働市場の経済分析に必要な理論的枠組みを構築した。派遣労働市場へ応用としたときに得られる結果の1つは、各仲介業者が生産性の異なる複数の労働者を仲介できる場合、どのような状況のもとでは、労働者・企業間の安定的なマッチングが市場競争の結果として創出されるのかを明らかにできることが挙げられる。研究成果の1部は、早稲田大学での研究セミナーで報告された。また、著作物『仲介取引市場の経済分析』(『市場の質と現代経済』第7章所収、勁草書房、2016年3月)を刊行し、研究成果を世間に広く公開した。なお、最終年度の研究を遂行するために必要なマッチング理論やゲーム理論の知見の獲得のために海外で開催された2つの国際学会に参加し、最新研究から当該の研究に必要な情報を収集した。そのうち1つの国際学会では、本研究に応用できるゲーム理論の新しい分析手法についての自著論文を報告した。 研究期間である3年間を通じて、派遣労働市場の資源配分機能や交換利益の分配機能を分析できる経済理論を構築し、仲介業者のマッチング機能を高める市場インフラの整備が、労働市場の質を高めるためには欠かせないことを明らかにした。労働市場を活性化させるための制度設計に関するより具体的な分析は将来の課題として残されているものの、おおむね当初の研究計画を達成できたと考えている。期間全体で得た研究成果として、査読付き海外学術専門誌への掲載論文1本、海外研究所での研究報告1回、関連研究の国際学会での研究報告1回および国内大学での研究報告1回、そして研究成果の集大成としての著作物1冊が挙げられる。
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