研究課題/領域番号 |
25870578
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
安倍 幸治 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (50315652)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 音像方向制御 / 先行音効果 / 拡声システム |
研究概要 |
音の聞こえてくる方向(音像方向)をマイクの位置(音源位置)に合わせて動的に制御可能な拡声システムの開発を目指し,下記の検討を行った.この拡声システムは避難誘導システムなどへも応用が可能である. はじめに,聴取者の周囲に配置される2つの拡声スピーカの位置が音像の方向へどのような影響を与えるかを被験者の全周方向に網羅的に音源を配置することで実験的に検討した.その結果,聴取者から見てどの方向に二つの拡声スピーカが配置されたとしても1.25 ms程度の時間差を設ければ,先行音効果が発生する事が確認された.しかし,二つの音源の配置が前後に分かれる場合には,合成音像に対する前後の知覚誤りが発生し,方向に対する知覚誤りが増加する可能性が示唆された.また,配置する二つの音源の一方に仰角を設けた場合には,先行音効果の発生に必要となる二音源間の時間差が若干減少する傾向が見られたが,1.25 msより大きな時間差を設定した場合には,音像の水平方向に対する先行音効果は仰角を設けない配置と同様に発生することが示された.このことから,拡声システム構築にあたり,網羅的な水平面内の音源配置の知見を基に,各音源からの提示レベルや時間差を設計しても問題がないと言える. 広い空間に拡声システムを設置する場合,用いる拡声スピーカは2つ以上となることが想定される.そこで,二つ以上の方向から音が到来することが,もっとも近距離に配置された二つの音源によって知覚される音像にどの程度影響するのかを,3つ目の音源(以下,第3音源)の方向及びレベルを変化させることで検討した.その結果,第3音源から提示される音のレベルが第1及び2音源と同程度である場合は,第3音源の配置方向によっては音像の知覚方向に影響することが確認された.また,第3音源のレベルが6 dB程度相対的に減少すれば,その影響はほぼ無視できることも確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は,音の聞こえてくる方向(音像方向)をマイクの位置(音源位置)に合わせて動的に制御可能な汎用拡声システムを構築することである. 本年度は,音圧レベル及び時間差による制御が音像方向に及ぼす影響を明らかにするために,2音源を聴取者の周囲に様々な配置で設置し,音像の知覚方向を回答させる実験を実施した.実験条件として,音源の水平角,音源の仰角,提示音圧レベル,提示時間差を制御した.水平角度については,被験者9名に対して,30度間隔で配置した音源のほぼ全ての組み合わせに対するデータを得ることが出来た.また,提示時間差についても,実施した全ての音源の組み合わせにおいて,-3 ~ 3 msの範囲で実験を行っており,ほとんどの条件下で先行音効果が発生する時間的境界を得ることが出来た.これらのデータは,本研究の目的達成のために有用なものである.一方,仰角及び提示音圧レベルについては,設定した要素の全組み合わせで考えると,半分程度の条件に対して,提示音圧レベルについても同様に半分程度の条件にて実験を行った.一部データ不足ではあるが,目的達成のための傾向は十分把握可能である.今後,先行音効果の振る舞いを説明するモデルの構築を予定しており,そのモデルの評価に本実験の結果を用いる予定である. また,実装のために,複数音源の配置が合成音像の方向知覚に及ぼす影響についても検討した.その結果,聴取者の位置に最も近い音源(第1音源)と2番目に近い音源(第2音源)の音圧レベルと,3番目に近い音源(第3音源)のレベルが同程度の場合には,第3音源の方向が影響することが示された.また,その影響は,第3音源のレベルが第1,第2音源よりも相対的に6 dB小さければほぼ無視できることも分かった.このことは,実際の空間に拡声システムを設置した際の音像の振る舞いを予測する上で重要な知見といえる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度で実施した各種聴取実験から得た知見に基づいて,下記の2点について検討を行う予定である. 1.任意の拡声システムに対する音像方向を予測するシミュレーションの開発とその評価 はじめに,本年度に実施した2音源による音像定位実験をもとに,音圧レベルと2音源間の時間差,音源の方向をパラメータとした音像方向のデータベースを作成する.その後,そのデータベースを用いて拡声システムを実装した場合の各受聴位置における音像方向を予測するシミュレーションを開発する.この音像方向予測シミュレーションを開発する目的は,特定の方向に音像を生成するために,任意の空間内に配置されたスピーカに対してどのような提示レベルや提示時間の遅延を設定するのが最適であるかを決定するソフトウェアを開発するためである.また,その目標が実用可能な精度で実現できるかを検証するためにも用いることが出来る.シミュレーションの開発と同時に聴取実験的な検討も必要となると考えている. 2.先行音効果を説明可能な音像方向モデルの開発 開発を目指している音像方向を制御可能な拡声システムを,より汎用的なものとするためには,実験的に基づくデータを基本とするのではなく,より一般的なモデルに基づいた音像方向検出を用いるのが妥当と思われる.そこで,これまでに提案された単独音源などの到来方向を算出する音像定位モデルなどをベースとして,先行音効果を説明可能な音像定位モデルの構築を目指す.具体的には,Zurekが提案した先行音効果モデルの概念に従い,そこに周波数領域両耳聴モデルを組み込むことで開発を行う.
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