音の聞こえてくる方向(音像方向)をマイクの位置(音源位置)に合わせて動的に制御可能な拡声システムの開発を目指し,下記の検討を行った.この拡声システムは,講義室やホール等での音像制御や,避難等の音像による誘導システムなどに応用が可能である. 本年度は,昨年度構築した音像定位方向を推定するシミュレータを用いて,幾つかの空間の音像定位を推定し,その性能を評価実験に基づいて検証した.実験では,10m × 7m程度のサイズを持つ会議室に,頭部位置の高さに音源を3つ配置した.各音源からの刺激音の提示レベルは等しくし,遅延時間条件のみを制御した.まず,音像方向推定のシミュレータを用いて,1mのグリッドの交点に設定した,室内の各受聴点での音像方向の推定を行った.その後,5つの受聴点を選択し,被験者を座らせ,知覚した音像方向を回答させる実験を行った.実験の結果,受聴点に到来する各刺激音のレベル差や時間差がある程度大きい場合には,具体的には,レベル差が約5 dB,時間差が1 ms以上ある場合には,推定される音像方向と,実験に得られた音像方向は良い一致を示した.しかし,レベル差や時間差を小さくなるような受聴位置においては,推定結果と実験結果が一致しない結果となった.このような受聴点における先行音効果のデータベースをみると,先行音効果の発生が曖昧な条件となっており,そのことがこの不一致を生じさせていると考えられる. また,推定システムの条件を変更して音像を任意の方向に設定できるかどうかの検討も実施した.その結果,拡声システムを取り付ける空間の周囲をある程度囲むように音源を配置した場合には,十分な精度で音像の方向を制御可能であることが確認された.
|