平成27年度は実験計画に記した、アルツハイマー病の認知機能障害に運動の質が与える影響について検討する前段階として、健常なラットが様式の異なる運動を行った時に、認知機能がどのように変化するのかを探ることとした。 ラットに対し、自発的あるいは強制的に習慣的な運動を行わせ、空間的記憶課題(Barnes迷路課題)にて行動解析を行い、あわせて脳由来神経栄養因子であるBDNF発現量を当該記憶の脳内関連部位である海馬および前頭皮質において生化学的に分析をした。自発的運動(SE)群は、回転かご付きケージ内にて過ごさせた。強制的運動(FE)群は、トレッドミルを用いてSE群の走行距離と等距離を走行させた。両群ともに週に5日の運動を、1ヶ月継続して行わせた。 行動実験として、空間的記憶課題であるBranes迷路を用いた。1日4試行を連続3日間行い、新規学習能力について検討し、72時間後に参照記憶テスト、翌日からは逆転学習(先の学習で逃避箱を置いた穴と対極の穴の直下に逃避箱を設置させ、新しい逃避箱の場所を覚えさせる学習)を行った。行動実験終了後、脳を摘出し、海馬および前頭皮質におけるBDNF発現量をELISA法を用いて分析した。 結果、FE群に比べ、SE群における新規学習および逆転学習の成績が良好であった。また、海馬および前頭皮質において、FE群に比べSE群のBDNF発現量が増加していた。 以上の結果から自発的な運動は強制的な運動に比べ、学習機能を向上させるだけでなく、不要な情報を速やかに抑制し、新しい記憶の定着を促していることが示唆され、それは脳内のBDNF発現量と関連する可能性が示された。アルツハイマー病や統合失調症などでは、しばしば逆転学習の障害がみとめられる。今回の結果は、自発的な運動が疾患における障害を改善する可能性があることを意味含んでいる。
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