巡礼はツーリズムや地域振興などに文化資源としてたびたび活用される。本研究はこうした現代的な状況を「聖年(memorial year)」という切り口で、記念碑的に創出される大規模な祝祭状況に注目して考察する。弘法大師信仰を関連する「四国遍路」および「高野山」の2ヵ所を事例に、1巡礼の歴史や起源に関する公式的な説明、2「聖年」に向けて醸成される共時的感覚、3四国遍路と高野山の連携や融合状況、の3点を、宗教、行政、ツーリズム、そして巡礼者に対する文化人類学的手法による現地調査を通じて、多角的に記述し、考察することを目的とする。 2016年度は、主に四国遍路において開創1200年を経てどのような変化が定着したのかを札所寺院の奉納物等に注目して調査した。とりわけ、聖年の記憶を後世に伝える記念碑的奉納品「聖年モニュメント」に注目し、四国八十八ヶ所霊場と別格20霊場で、霊場開創および弘法大師の御遠忌・御誕生の聖年モニュメントを調査し、総計136基の聖年モニュメントを確認した。霊場開創については、開創1100年(1914)の15基、開創1150年(1964)の6基、開創1200年(2014)の6基を確認した。50年周期という規則性からすれば、1864年に霊場開創1050年が相当するが、該当する聖年モニュメントを見つけることはできなかった。一方、1834年の御遠忌1100年のモニュメントは確認できたことや、開創1100年のモニュメントに、個別の開創寺伝と霊場全体の開創伝説を接続という課題に関連する事例を見つけたことなどから、霊場開創という聖年は開創1100年の際に創出された可能性が高いことと結論づけた。
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