本研究において、以下の大型国際美術展事業におけるアーカイヴの取組み状況に関する調査を行った。(調査ヒアリング実施先:ドクメンタ・アルヒーフ(カッセル、ドイツ)、ヴェネツィア・ビエンナーレ・アーカイヴ(ヴェネツィア、イタリア)、パリ青年ビエンナーレ・アーカイヴ(レンヌ、フランス)、マニフェスタ・アーカイヴ(アムステルダム、オランダ) 調査において、アーカイヴを構築するために必要な資料収集保管業務をめぐって、実地調査を行ない、現状確認と合わせて担当者へのヒアリングを行なった。ヒアリングでは、実施主体、組織構成、具体的な業務内容、資料媒体、所蔵数、現状の課題等の聞き取りを実施した。今回の4事例において、資料の整理手法や保存方法において多くの共通点がある一方で、個々の「アーカイヴ」業務が目指す目的には若干の相違点があることが判明した。半恒久的に資料を保存継承していくアーカイヴ業務は、作業に従事する専門労働者の雇用費用や資料の現物を保管する物理的空間の維持管理費用等が重なり、高額な維持管理費用が発生するため、どの施設においても、維持管理コスト削減の努力が要請されているのが現状である。 調査結果から、大型国際美術展のアーカイヴが巨額の予算を投入して資料の維持管理を手がけるには、各アーカイヴ担当者に通底するアーカイヴへの基本認識を見取ることができた。欧州全般において、アーカイヴは歴史を共有する装置として、また事業の透明性を公開する民主主義社会の証として、象徴的な機能を担っている。大型国際美術展においても、各事業がアーカイヴを設置し、資料を保存継承していくのは、まさにその象徴的機能を踏襲するためとも言えよう。広く共有された歴史への意識、あるいは公共への意識がこれらのアーカイヴ事業を根幹から支えている。
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