菜種油をはじめとするいくつかの食用油は脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHRSP)の寿命を著しく短縮させる。本研究では、その原因物質が18:1脂肪酸であるという作業仮説の元に、動物実験を中心として様々な実験を実施した。当該年度では以下の点について検討を行った。(1) 血清、肝臓及び腎臓における脂肪酸含量とステロール含量について検討を行った。3つの臓器において、寿命短縮を示す菜種油は総脂質含量、18:1脂肪酸含量並びに植物ステロール含量が、短縮を示さない大豆油に対して有意に多かったのに対し、病態改善作用を示す完全水添菜種油(FHCO)では、逆にこれらの成分が大きく減少していた。そのため、これらの脂質成分は、SHRSP臓器において病態の進行に大きな影響を与える因子であることを示唆する。(2)FHCOでは組織中DHA含量が有意に増加していた。また、18:1脂肪酸の吸収・排泄を確認するために、C-14で標識した18:1脂肪酸を用意し、これをSHRSPに投与して、トレーサー実験を行った。その結果、遊離型18:1脂肪酸では、トリアシルグリセロールの形状と比べて、ラットの体内に残留する時間が短かった。このことはリパーゼやアルカリで処理した食用油ではSHRSPに対する寿命短縮活性が確消失する結果を反映しており、この現象における18:1脂肪酸の関与を裏付ける結果であった。 今までの結果を含めて総括すると、食用油摂取によるSHRSPの寿命短縮には、食用油中の18:1含量が大きく関与することが明らかとなり、植物ステロールなどと共に腎臓、脾臓等に障害を与え、高血圧に伴う脳卒中の誘発を促進すると推測された。本結果は病態動物における特殊な例かもしれないが、さらに組織障害のメカニズムを検討することにより、脂質栄養による健康増進に寄与してゆきたいと考えている。
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